田丸雅智さんが「猫」をテーマに書き上げたショートショートです。すべての話に猫が出てきて、まったり、ほんわかした気分を楽しめます。猫の話に浸りたい欲求を今すぐに満たしてくれます
1.猫の能力
この本に出てくる猫は、普通の猫ではありません。仕事をしたり、人を癒やしたり、合コンの手助けだってします。そんなスーパー猫たちが、町のあらゆる場所で活躍します。『猫の局員』や『猫ポリス』はいたってマジメに仕事をしますし、ネイルに通う猫もいれば、おやつをせがむ猫もいます。
お盆に帰って来る『夏の日の猫』は読者をしみじみとした気持ちにさせ、心を癒やす『スキマの猫』は傍にいて欲しい猫です。
気まぐれなのに、どこか愛らしく憎めない。そして、大事な時には傍にいてくれる。緩急をつけた猫の話は、何度も繰り返して読みたくなります。
2.カバーで猫探し!?
カバーデザインの緑と白の配色からは、とても優しい印象をうけます。「マタタビ町」のところに入った線は猫のヒゲみたいです。作中に出てくる猫が、表紙カバーに描かれている良さもあります。一匹ごとに、物語と表紙を照らし合わせながら探す遊びも楽しめます。
実際に探してみると、残り3つ4つくらいが難しいですが、答えに詰まった時は目次ページがヒントになっているので時間をかければ必ず見つけられます。読書後の楽しみに、パートナーと一緒に猫を探してみるのも楽しそうです。
3.まったりとした気分で読む
何といっても、全部の作品に猫が出てくるから、話のまとまりがとても良いです。猫から話が逸れないので、どんどんと読み進められます。
(他の本では「診療所・オフィス・Bar」とタイトルにある場合も、いくつかの話はタイトルとの関係が薄い話もあります。その点、この本はきれいに統一されています)
私が一番素敵だと思うことは、この本にはドロドロとした人間関係の話が出てこないことです。他の本には、現実世界を模写したような社員同士の陰口のシーンがたまに出てきて「この描写はほんとうに必要?」と感じたり、「ちょっと、ここは読んでいると心が消耗してしまうな」と、感じるたりすることがありました。
個人の感受性にもよりますが、どの話もまったりとした気分を保って読むことができて、安心して読み返すことができます。私としては、作者にはずっとこのスタンスで書いてほしいと思っています。
4.漫画や雑誌にも注目
3つの作品は「猫びより」という雑誌にいち早く掲載されました。単行本よりも先に田丸雅智さんの猫作品を読みたい人は、雑誌をチェックしてみるといいかもしれない。[ねこのきもち公式サイト] 今のところ、小説が掲載されるかは未定ですが、雑誌の可愛らしい猫の写真は、きっと読者の心を癒やしてくれます。
カバーのイラストが気に入った方は、ねこまきさんは漫画も書いているので、イラストを電子書籍でも読むこともおすすめです。[ねこまきさん公式ブログ]
5.田丸雅智さんの他の猫作品はある?
答え:あります
どの話もまったりした印象で、少しクスッと笑って楽しめる話です。
書籍名「(各話のタイトル)」
・ショートショート・マルシェ「ネコの目」
・日替わりオフィス「指猫」
・海色の壜「アドネコ」
・ショートショート美術館「猫の悩み」
・転校生ポチ埼ポチ夫「ポチ埼亭」
6.ネコ好きを増やせる本
猫好きの人なら、表紙だけを見て買っても、絶対に後悔はしないと思います。
この本の猫は目新しく思いがけない能力を持っているので、新鮮な気持ちで楽しむことができます。人に貸せば猫好きを増やせる本としておすすめです。
『マタタビ町は猫びより』田丸雅智 辰巳出版 2019年6月初版