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【目の認知機能】No.001 人の顔を覚えられない!?『アファンタジア』視覚的イメージの得意苦手と困り事

目の認知機能を様々な角度から知るシリーズです。子どもの発達/認知症予防/社会人のスキルアップのヒントを紹介します。

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視覚的なイメージを思い浮かべることができない「アファンタジア」はどのような病態なのか、日常生活にはどのように影響するのか、本を基に紹介します。

 

 

1.アファンタジアの定義

アファンタジア」とは、頭の中で自発的な視覚的イメージを思い描けない状態を言います。

 

イギリスのエクセター大学のゼーマン教授と共同研究者によって、2015年につくられた用語です。

 

 

<アファンタジアの原因>

十分に解明されていません。

 

<アファンタジアの症状>

アファンタジア イメージのない世界で生きる』の中では、次のような特徴が示されています。

  • 重度から軽度までの差があるスペクトラム症(=現れ方は人によって差がある)
  • 基本的には、一度獲得した能力が低下したのではなく、幼少期から視覚的イメージを思い浮かべる能力が欠如している。※後天的にアファンタジアの症状が現れたエピソードもある。
  • 視覚的イメージとは、自発的に思い浮かべようとする場面での困難さであり、寝ている時に夢を見る人もいる。
  • イメージ(平面/立体/色)よりも言葉で理解する。
  • 認知機能低下との関連性はみられない(認知症とのつながりはおそらく無い)
  • アファンタジアであっても、気づかずに生活を送り、人生で苦痛を感じない人もいる。

 

 

<理解するための質問>

あなたの家の場所を、頭の中で思い浮かべてください」という質問をすると分かりやすいかもしれません。

 

アファンタジアの人には写真のような風景は浮かんでおらず、言語知識の集大成として家の場所を考えます。知識は頭に入っているので、帰る家が分からなくなることは起こりません。

 

 

(例.X市Y地域3番地の住宅街にあるZ公園の横に4階建てのマンションがある。3階まで階段を上がって、廊下を歩き、突き当りの角部屋が私の部屋だ)。

 

 

 

誰々さんの顔を思い浮かべてください」という質問も同じです。

 

アファンタジアの人は、顔の情報を「細い目・メガネをかけている、黒髪」など、「タグ付け」できる言語情報として認識します。もしも、ちょっと目を離した瞬間に、目の前で話している人が入れ替わったとしても、同じ言語的タグが付いていれば入れ替わりに気づかない可能性もあります。「アイドルグループの人の顔が、みんな同じに見える感覚」というと分かりやすいかもしれません。

 

 

2.アファンタジアの説明への疑問

  • 子どものおままごとでアファンタジアは判断できる?「とんとんとん」と包丁で切るフリは視覚的イメージの再現が関わっているように思います。
  • 相貌失認や、神経発達症とは違うのか?
  • 脳の特定部位の要因?それとも神経伝達経路上の要因?
  • 短期記憶から長期記憶へ移らないことの障害?
  • 偏桃体の働きにどう影響する?例えば「肌を虫が這う」というゾワゾワする感覚の欠落が、成長に影響を与える?
  • 保険適用される可能性はある?

 

本を読んだ印象としては、短期や長期の記憶に移るときの何かしらのエラーであって、数秒の超短期的な視覚的認知には問題が起きないという印象でした。

 

脳の特定の部位ではなくて神経伝達のプロセス由来なら、発達障害・相貌失認・認知症に追加して診断されることもあり得ると感じました。

 

例えば「人の顔を覚えられない/覚えにくい」という特徴だけを見れば、相貌失認や神経発達症などと共通するところも多いです。一体何がどこまで違うのかが気にかかります。

 

謎が多い病名ですが、アファンタジアの治療法や訓練法が開発されたのなら、それは症状が似ていて他の診断がついている人にも、応用できる可能性を感じます。

 

 

 

3.アファンタジアの事例

研究途中の分野なので、アファンタジアとされる人の証言を集めることが、究明につながると思います。本の中からいくつかを引用します。

 

それらは、視覚的ではありません。イメージではなく、アイディアや概念です。私はしばしば、アイディアの図式、フローチャートのようなもの、あるいはペン図表を視覚的にイメージできます。それは、基本的にアイディアの空間的な構成です。(中略)私の想像には、物理的な色や複雑な形は存在しません。(108-109ページ)

 

写真やビデオは私の記憶になっている。(p.132)

→ICT機器を使う方法は助けになりそうです。

 

私は顔を覚えているのではなく、表情やボディランゲージを覚えているという結論に至りました。たとえば、黒色の短髪で、背が高く、いつもの顔の表情、動き方などで、だいたいのひとは認識できます。私には、顔の表情やボディランゲージについての視覚的ワーキングメモリがありません(中略)しばらくの間、それらを心のなかに留めておくことはできます。私は相貌失認の検査をうけたことがありますが、(中略)同じ表情の顔を選んだため、よくできたのだと思います。私は、俳優を見分けるのが苦手です。(中略)はっきりとした特徴を「言葉」としてメモします。(pp.171-173)

 

私は新しい経験や大きな経験を求める傾向にありますが、それはおそらく、そのほうが記憶により「突き刺さる」からです。(p.180)

→反応感度の低さから強い刺激を求めるのは、発達障害にも関係しそうです。

 

事実に関する記憶力はとても良いし、概念やパターンに基づいた学習スタイルは、数学やその他のことでもよく役に立っています。(p,222)

→パターン化による認識や、言語化をしてタグ付けすることは、人の顔を覚える方法に使えそうです。

 

イメージの出現がなくても、私はそれらの知識をもっている。(p160)

→自閉スペクトラム症の態度を考えるフレーズにもなりそうです。

 

また私は相対的な時間の概念に苦しんでいる。ある出来事が他の出来事と比較して、私の人生の中でいつ生じたのか、判断することができない。(p.161)

 

 

4.アファンタジアは「空間的・時間的に当たりを付けて再現する能力」の欠如かもしれない

手がかりは知識体系と習慣

アファンタジアの人は、知識体系や行動習慣を手がかりにしています。

 

新しい土地や、新しい職場で、十分に言語化できていない対象に向き合わないといけない状況では、日常が「ウォーリーを探せ」のような状態になりそうです。

 

歴史の年号を暗記するのは得意かもしれませんが、ひったくりに合った時に警察に説明をするのは苦手かもしれません。どのくらい前に起きたか、どんな風に起きたか、相手の顔や服装、大体の年齢を現すことができません。

 

 

見た目で判断する仕事は辛そう

工場での多品種少量の部品の組み立てや、新規訪問営業は見た目で覚えることがたくさんあるので厳しそうです。学校教師なら、授業中は問題なさそうですが、休み時間中の数十人の対応は難しいかもしれません。

 

 

 

5.健常者障害者に入り混じる「私がファンタジアだ」という主張が増えて欲しい

用語が広まれば、自己診断で「私もアファンタジアだ」と発信する人が増えるでしょう。自己診断をすること自体は、症状が軽度から重度まであるので、私は問題ないと思います。

 

診断名は、本当に困っている人にとっては救いになります。

 

大事なことは、「私もアファンタジアだ」という言う人が増えてブームが来た時に、そこから集まる「できる工夫、アイディア、ノウハウ」を、神経発達症(自閉症・ADHD・知的障害等)や相貌失認、認知症の人との意思伝達や、仕事の指示の与え方の工夫に活かすことだと考えています。

 

改善工夫ベースで考えると、誰でも「どうやって工夫して適応するか」は課題ですので、一定の診断基準ができるまではアファンタジアを自称する人がどんどん増えて、対応策が次から次へどんどん出てきて欲しいと、私は思っています。

 

 

6.まとめ

頭の中に視覚的イメージを思い浮かべることができない「アファンタジア」を取り上げました。

 

まだまだ証言を集める段階で、要因や病態は定まっていませんが、病名の区分にこだわらずに、家庭や職場での困りごとへの対処法・工夫を見つける手がかりにできる用語です。