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令和いじめ最新統計&相談スキル相談マインドは必須 全国82.6%の学校でいじめが発生中

2020年10月22日、令和1年度の最新のいじめ統計が発表されました。小・中・高・特別支援学校をすべて合わせて、日本の82.6%の学校でいじめが認知されています。このうち8割のいじめは相談をすれば解決するというデータが出ています。

 

いじめを環境の問題だと捉え、解決に最も必要な「相談スキル・相談マインド」を、生徒が持つには何が必要か、最新の統計と手に取りやすい新書から案内します。

  

 

1.いじめは環境がつくる:基本の4層構造

まず、大前提として、いじめがつくられる要因には個人の性格よりも環境因子が深く関わっています。加害者と被害者に加えて、多数の観衆と傍観者という4層の構造によっていじめは成立しています。

いじめ,4層構造,森田洋司

『いじめとは何か』森田洋司 中公新書[132頁]を元に作成

観衆と傍観者には加害者の行為を促進または抑止する力があり、この大多数がどう振舞うかによっていじめが育つか、弱まるかが決まります。後述する最新の統計では、被害者・観衆・傍観者の相談スキルを高めることで、いじめが解決に向かいやすいというデータが出ています。

 

2.いじめの統計データ 

2-1 発生率

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令和1年度(令和1年4月~令和2年3月)のいじめ認知件数は612,496件であり、国公私立・小中高特別支援学校のどれを見ても過去の最高値を更新しています。学校単位では全学校のうち82.6%の学校でいじめが認知されていて、前年度の543,933件・80.8%と比べて増加しました。

 

統計から、学校に通うほとんどの生徒はいじめに出会うと言えます。認知件数の増加は、社会的にいじめに対する関心が高まっている事や、解決への取り組みが進められるようになっている事を示していると、捉えることもできます。

2-2 年齢によるいじめの変化

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どの年齢でも最も多いのは、「冷やかし、からかい、悪口、脅し、文句、いやなことを言われる」の項目で、約60%を占めています。

 

小学生では主に「たたく、蹴る、いやなことや恥ずかしいことをする」の割合も高く、年齢が上がるにつれて「仲間外れ、集団無視、金品たかり、ネットでの嫌なことをする」が増えています。成長とともに、物理攻撃から精神攻撃へと、内容が変化していることが統計から読み取れます。

 

2-3 いじめの発見

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いじめの発見は、「アンケート」による発見率が高く、小学校58.2%、中学校37.6%、高等学校48.2%、特別支援学校45.1%です。また、「本人・家族の訴え」も発見理由としては多く、小学校25.1%、中学校38.7%、高等学校35.2%、特別支援学校26.5%です。

 

一方で、「本人以外のクラスメイトの訴え」によるいじめ発見はあまり期待できず、小学校3.0%、中学校5.3%、高等学校4.3%、特別支援学校3.5%と、他の項目と比較しても低いです。クラスメイトの多くは観衆・傍観者の立場であり、いじめの4層構造の中で暗黙に加害者に加担をしやすい状況であることが、統計に表れています。

 

2-4 解決率

いじめが解決されるには、被害者とされる生徒本人が「相談スキル・相談マインド」をもつことが必要です。

 

小中高特別支援学校全体の統計では、いじめの相談後は83.2%が解決し、残りの16.6%も解決に向けて進む、というデータが出ており、相談することの重要性が示されています。

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※解決の定義は「目安として3か月で当該行為がない。面談により、本人が心身の苦痛を感じていない」という基準が設定されています。いじめの定義は本人の心象ベースで設定されているので、解決の認定の場合にも本人の心象が重要視されています。

 

2-5 相談状況

大事なことは「イジメか、イジリか、お遊びか」を判定することではなく、「苦痛ならイジメ」と自信をもって大人に相談できることです。

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生徒の相談状況を見ると、相談する相手としては学級担任が最も多いです。そして、年齢があがるにつれてその割合は減り、相談相手が多様化することが分かります。注目する点は、「相談していない人」の割合について、小学生5.3%、中学生5.3%に対し、高校生では9.1%に増えており、年齢が上がるにつれて「相談スキル」の有無が分かれている事が示されています。

 

また、精神保健の専門知識を持つ「養護教諭・スクールカウンセラー」への相談割合について、小中学生では友達よりも低く、高校生と特別支援学校生では友達をわずかに上回っています。

 

クラスメイト経由のいじめ発見割合が低いことを考えると、養護教諭とスクールカウンセラーへの相談割合を友達以上に増やすことが望ましく、その役割を積極的に広報することが求められます。

 

  

3.「耐える強さ」に教育を

 

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いじめは強さを競うバトルです。加害者の「いじめる強さ」に対し、被害者は「どこまでも耐える強さ」、観衆と傍観者は「上手に立ち回る強さ」を発揮して、クラス全体が強さを示してギュウギュウと押し合っています。その環境から、ひょいと抜け出して相談に向かうことは、逃げや弱さとして認識されます。

 

生徒が相談をするかどうかを迷う時に、相談に踏み切る力になるのは、やはり大人からの事前教育です。一人ひとりに健康や学びの機会を守る権利があることや、それらが将来の収入に影響することを大人が繰り返し伝え、相談が「しなやかな」行動であるという価値判断を育てる教育が必要です。

 

いじめは言葉の総量のバトルとも言え、いじめの60%を占める「からかい、悪口、嫌なことを言われる」に対して、「耐える」以外の方法で対応するスキルが必要です。「陰キャ」と言われて被害者が「消えたい」と単語を使うだけでは立ち向かうことはできません。

 

時系列がこんがらがった体験を整理して解きほぐし、何が起こりどう感じたのか、それらを単語から短文へ、短文を文章に変えること、声に出すこと、それが相談やカウンセリングを通して達成できるステップです。

 

社会から受けた痛みは、言葉にして社会に返す必要があります。 そこには、いじめ被害からの一発逆転ストーリーも、華やかさとのギャップも必要ありません。相手の行動に影響する強さを求めて、命まで差し出す必要もありません。 

 

起こった出来事や感じた感情について、手助けを受けながら自分の言葉で語ることは、みじめさを解消し、自己肯定感を回復させます。

 

 

4. お金を守る、いじめの知識

いじめの知識は守りの知識です。知っていることで、すぐにお金は増やせませんが、学びの機会や心身の健康という、将来お金を稼ぐために必要な要素を守ってくれます。その知識があれば、自分自身や大事な家族・友達・同僚の健康も守ることもできます。

 

まずは大人が先にいじめの知識をつけ、生徒に「相談スキル・相談マインド」を育てる働きかけが必要です。そのための最初のステップとして、次に案内した新書を日本人全員が読むことを本気で望みます。 

 

5. いじめの知識はこの3冊から

5-1『いじめとは何か』 森田洋司 著   中公新書

いじめ理解の基本とも言える「いじめ集団の4層構造モデル」が説明されています。さらに、1970年代からいじめは学校で起こり続けているという事実を知り、いじめの定義や国内での対応が変化してきた経緯が分かります。いじめの研究者(解決の協力者)の存在を感じることができます。740円+税

 

5-2『いじめの構造』   内藤朝雄 著   講談社現代新書  

いじめの4層構造を踏まえて、学校に通う生徒達の関係性に焦点を当て、群生秩序(神聖なノリ)、いじめがうつる、いじめが心を癒してくれる、愛想のいい隣人が状況によって残酷な人に変わる「中間集団全体主義」など、自分たちの教室や部活動で起きていたことはこれだったのか、と腑に落ちる解説が沢山されています。760円+税

 

5-3『いじめを生む教室』荻上チキ 著 PHP新書  

いじめを生み出す環境因子や傾向に着目して、「いじめが何月に起こりやすいか」、「いじめを受けやすいハイリスク層」、「教室でのいじめとネットいじめがどう関係しているか」など、統計データに基づいて解説されています。子どもをいじめから守りたい保護者の方に役立ちます。920円+税

 

 

さいごに :大人が知識を持てば、生徒の相談を増やせる

生徒の「相談スキル・相談マインド」は自然放任していては育ちません。まずは、大人側がいじめの知識を持ち、「相談をすれば解決にむかう」というシンプルな見通しを繰り返し伝えることが大切です。

 

養護教諭やスクールカウンセラーの方も、多忙な中で可能な限り広報をすることが必要です。

 

いじめに出会う人が「個人の性格や言動」ではなく、いじめを生む「環境」に目を向け、学びの機会と心身の健康と収入を守る「相談スキル・相談マインド」を発揮できることを願ってやみません。

   

<参考>

令和元年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果 (※文部科学省発表,いじめ統計の正式名称)

https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/1302902.htm