今回は、田村雅智さんの作品の中から、小学生中学年向けの本を3冊選びました。「分かりやすいか」、「ワクワクするか」を基準にして、国語が得意な子または苦手な子向けに、それぞれおすすめしています。また、児童書でも、選ぶときに少し注意が必要な作品もあり、そのポイントをまとめました。
1.珍種ハンターウネリン先生 (小説)
小学生4年生のリョウとシンジは、珍しい生き物を集めるウネリン先生の仕事場を訪れます。そこでは見たこともない面白い生き物と出会えます。「風船フグ」はぷかぷかと空中に浮かび、食べた人はどんどん体が膨みます。
トサカがめらめらと燃えている「炎ニワトリ」では、卵を食べることで起こるオチが面白いです。「屏風トラ」では、屏風に恐ろしいトラの絵が描かれていて、触れると絵の世界に引きずりこまれてしまいます。そのうちに虎が外へ逃げ出して…… テンポの良い展開が読者をはらはらさせます。また、ヒョロリというお調子者の研究員もキャラが立っていて、主人公たちとの会話の掛け合いが物語に一味加えています。
思いがけない珍しい生き物が出てきて、飽きることがありません。挿絵も豊富に描かれていて、生き物のイメージを楽しめます。
分かりやすく、ワクワクできるという点からも、すべての作品がおすすめです。
2.ヘンな生き物研究所 (マンガ)
2-1国語が苦手な子におすすめ
小説の『珍種ハンター ウネリン先生』を漫画にした本です。
文章を読むのが苦手な子や、小説に興味がない子が最初に読むには良い本です。基本的に1段落=1コマとして、文字が表す状況を絵にしているので、文章の意味のまとまりが分かりやすくなっています。4つの作品が収録されています。
「大陸ウシ」は天気に影響を与える牛が登場します。「おそうじカメレオン」では、うんちが出てくるので、好きな子どもは多いかもしれません。願い事が叶うテントウムシが出てくる「カナエテントウ」や、なんでも真珠に変えられる「ドデ真珠貝」は、お金持ちになりたいという願いを元に話が広がり、とても分かりやすい展開です。
巻末には、小説として、ドレミファ……と音を出す「ベルムシ」がありますので、「マンガの続きで、小説をもうちょっとだけ読んでみようかな」と思って、読んでくれるかもしれません。もちろん、この小説にも挿絵が描かれているので、漫画の続きの感覚で読むことができます。また、漫画化されていない他の生き物についても、「珍種レポート」のページで、イラストを楽しむことができます。
2-2 絵のクセがやや強い
「バアーン」や「シャキーン」「ごちゃごちゃ」などの擬音語・擬態語があり、コマ割りも漫画そのものです。小説の地の文をベースにしているので、文字の量はすこし多くなりますが、コミックスを読んでいるなら、すいすい読むことができます。読書に馴染みがないお子さんが読む本としては最適です。
ただ、大人からすると、絵柄にクセがあるので、好みが分かれるかと思います。涙と鼻水を流して泣く、ショックな場面では顔が紫色に代わるなど、強調の表現がややケバケバシイ印象です。「うひひひ」と笑うヒョロリのしたたかなお調子者という設定は、小説では程よい収まりでしたが、漫画では抜け目なく意地悪な感じが際立っていて、私としてはちょっと残念に感じました。
この絵柄は好みによって感想が変わるので、やや難しいところです。お子さんには絵を気に入るかどうかをきいてから購入するのがいいかもしれません。表紙のイラストは、中身と比べるとややおとなしいです。
3.じいちゃんの鉄工所 (小説)
3-1 この本を選ぶときの注意
発行元の静山社は、ハリーポッターの出版社です。児童書・ヤングアダルトを取り扱っている出版社ですが、この本については、手に取るときに気を付けるポイントがあります。一つ目は、使われている単語が難しいこと。二つ目は、抽象的な概念の理解が必要な話が序盤に多いこと、です。
3-1-1 難しい単語が出てくる
例えば、食糧確保・粘着力・オーシャンビュー・度外視などが出てきます。また、発電・タービン・蒸留どの言葉が出てきます。「糧・粘」は、中学2年生で学ぶ漢字です。カナカナで書かれる単語も生活に馴染みがあるとは言えません。とくに「度外視」は商業高校で簿記を学ぶ時に、初めて触れる単語ではないでしょうか。
『ウォータークラフト』では、粘土ではなく粘水を使って小学生が工作をするアイディアは面白いのですが、液体である水が、蒸発したり、固体化してつららができるという理科の学習が済んでいることが、「物語が分かる」前提として必要になります。
3-1-2 抽象的な概念の理解が必要
『家庭の温度』では、人が温かい・冷たいという概念の理解が必要なので、おそらく小学生中学年以上である必要があります。『バラの肉』では、バラという言葉から肉の概念(動物・食べる・おいしい・生焼け)と花の概念(植物・咲く・香る・贈り物にする)を理解している必要があります。この概念の区分けが不確かな状態で読んでしまうと、きっと混乱してしまいます。
『窓のクモ』では、窓ガラスのひびと、クモの巣が似ているというアイディアは分かりやすいです。しかし、クモが環境に適応して進化し、食料を確保するために窓ガラスに巣を張っているというオチを理解するには、エサが何を示しているかを類推する能力が必要です。
3-2 読みやすい・分かりやすい作品はこれ
この本は尻上がりに分かりやすくなり、さらにワクワクする度合いも大きくなります。私が読んだ印象では、最期の3作品はとても良い作品です。
「橋の下」では、海の中の家に住めるようになり「ようこそ、地下の天然水族館に!」という終わらせ方は、読者に続きを期待させます。『星みかん』は、特別なみかんを食べると手が金色に光り出す幻想的な作品。「顔出しパネル」では、ボードの顔の部分に穴の開いたパネルに顔をはめると、アフリカ人、スクランブル交差点を渡る人、戦国時代の武士など、時空を超えて世界中のあらゆる人たちの見ている風景を見ることができる、想像力を膨らませる、とても夢のある作品です。
3-3 子どもに薦める時の提案
親が小学生の子どもにこの本を薦める時は、一度作品に目を通してから、作品が子供の学習段階に合っているかどうか、を考えてみることが必要だと思います。
児童書だからといって、そのまま本をポンと渡してしまうと、つまらない(=理解できない)から読まないという展開になる可能性もあります。とくに、分かりやすくワクワクする作品は後半に固まっているので、読むときは最後の3作品を最初に読むことを、薦めてみてください。
4.おすすめはこの1冊から
小学生中学年のお子さんに薦めるとき、国語や読書が好きな子には『珍種ハンターウネリン先生(小説)』を、国語が苦手な子には「ヘンな生き物研究所(マンガ)」を薦めるのが良いと思います。
『じいちゃんの鉄工所(小説)』は、最後の3作品は別として、単語の理解と抽象的な概念的の理解が必要な、やや難しい本ですので、親が子どもの学習段階に適しているかを考えて、後ろの作品から読んでもらうことをおすすめします。
小学生高学年からは、こちらで紹介している本も楽しめると思いますので、読んでいただけると嬉しいです。