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【FMシアター】『星降る教室』感想:宮沢賢治作品へのオマージュ:『やまなし』のクラムボンから『銀河鉄道の夜』まで【おすすめオーディオドラマ紹介】

このサイトでは、数あるオーディオドラマの中からおすすめの作品を選んで紹介します。毎週土曜日に1記事投稿を目指しています。

サムネイル,FMシアター,002,星降る教室

オーディオドラマはサウンドドラマとも呼ばれ、音声だけのドラマ作品です。

1.作品紹介

初回放送日:2016年7月16日

主人公:30代女性、教師

テーマ:劇作家シリーズ、宮沢賢治、未来の自分への手紙、過去の自分への手紙、卒業式

シリーズ:宮沢賢治生誕120年企画

 

2.人ではない不思議な存在と出会う

はじまりは、ある曇り空の朝に届いた、一通のおかしな葉書でした。

 

主人公は通っていた小学校の卒業式に招待されます。

 

開催時刻は夜。空に月が昇る頃。

 

開催場所は……小学校校内の泉の奥

 

主人公は不思議な世界に入り込んで、言葉を話す動物たちと出会います。

・白うさぎ

・トラ猫

・アネモネの花の精

 

記憶の世界をめぐりながら、子どもの頃に大事にしていた記憶を思い出すお話です。

 

 

3.宮沢賢治作品へのオマージュ

『やまなし』

そう、これは初夏の教室。

消えてしまった夏の記憶の底を映した、1枚の青い幻燈(げんとう)です。(23:00)

これは、春を待つ教室。

冬の記憶の底を映した、もう一枚の幻燈です。(23:40)

 

作品の至るところに、宮沢賢治作品へのオマージュがあります。

 

なかでも意識されているのは『やまなし』という作品です。小学校の国語の教科書にも載っていた、蟹とカワセミとやまなしの話です。クラムボンという言葉も登場します。

 

『やまなし』を読むと、冒頭の一文に寄せていることが分かります。

小さな谷川の底を写した二枚の青い幻燈です。(青空文庫『やまなし』)

 

オノマトペ

擬音語や擬態語といったオノマトペも、宮沢賢治がよく使った表現です。

とってことってこテッテッテ

かぷかぷ、かぷかぷ

ぽっしゃりぽっしゃり

(11:40)

日常とファンタジー要素が合わさったようになり、作品の不思議な雰囲気が出ています。

 

『銀河鉄道の夜』

『星降る教室』というタイトルには流れ星が関係します。

思い出がよみがえる瞬間、

結晶はシュッと燃えて

白や青の光が生まれます

思い出せば出すほど星は瞬いて

終いには瞬ききれずに流れ星になるのです。

(30:00)

 

このシーンは小説『銀河鉄道の夜』を連想させます。小説には様々な色に光って燃える描写がたくさん使われています。

まるで昼の間にいっぱいの日光を吸った金剛石のように露がいっぱいについて、赤や緑やきらきら燃えて光っているのでした。(青空文庫『銀河鉄道の夜』)

 

 

4.音響効果のすごいシーン

水底の言葉を泡のように演出する

主人公たちは、小学校の泉の水底で、記憶の世界を再体験します。

 

夢の中の教室はいつも

ひんやりした青い水の中にありました。

(中略)

水底の砂はみんな水晶の粒でできていて

日の光がキラリとはじけ

水はゆらりと虹色になります。

転校生の私は、黒板の前に立って「はじめまして」を言おうとしていて。でも、そこからがどうしても思い出せなくて(04:00)

 

12歳の主人公が、転校初日に上手く声を出せなかったシーンでは、

「あの、えっと……その……」という声に合わせて、

泡がぽこぽこと出る効果音が重ねられていました。

 

届かない半端な言葉を泡としている演出は、新鮮な技法でとても印象的でした。

 

昼のやまなしと夜の月

泡の表現には、宮沢賢治作品へのオマージュが含まれています。

 

やまなし』の中に出てくるクラムボンという単語の意味は、crab(蟹の)+bomb(ボム)で蟹がぽつぽつと吐く泡という解釈が一説にあります。

 

物語の舞台は水底の世界、人の言葉は泡というように、世界観が丁寧に創り出されています。

 

また、小説『やまなし』で昼の空から降ってきたやまなしは、『星降る教室』では夜空に上がる月と対比されているように感じました。

 

宮沢賢治作品へのオマージュを含む何層にも練られた構成には、脚本家の吉田小夏さんの力と熱が注ぎ込まれています。

 

5.未来の自分への手紙、過去の自分への手紙

小学生時代の主人公は、未来の自分に宛てて手紙を書きました。

 

32歳になった主人公は、卒業式をもう一度やり直すことで、「他の誰でもない、私だけの言葉。自分が自分を励ます言葉」(38:20) を見つけて、過去の自分に贈ります。

 

自分のために悩んで考え抜いたことが、他の人のための言葉に変わるシーンには胸にジンときます。

 

物語の始まりと結びの両方に、次のセリフを置く構成が素晴らしいです。

このお話のどこかほんのひとかけら、

一言でもいい。

それがいつの日か、

ひとさじのお砂糖のように

あなたを笑顔にすることを

どんなに願うか分かりません。

(2:00)  (47:40)

主人公が過去の自分に贈る言葉であり、同時にリスナーに向けて語りかけているようにも感じられます。

 

作品にはオリジナルの挿入曲や、作中だけで聞ける歌があり、味わい深く完成度がとても高いです。

 

何十年先だって聴きたい最高の作品です!

 

 

6.再放送のリクエストを送る方法

オーディオドラマ番組の「FMシアター」は、公式サイトにリクエストを送ると、再放送される可能性がぐっと高まります。

NHKや番組についてのご意見・お問い合わせ | NHK みなさまの声にお応えします

メールなら5分もあればリクエストを送信できます。ほかに電話、手紙、FAXでもリクエストを受け付けているので、ぜひ馴染みのある方法で送ってみてください。

 

7.出演者・スタッフ

<作>

吉田小夏 Yoshida Konatsu

 

<音楽>

川田瑠夏 Kawada Ruka

 

<出演>

ゆきこ:渋谷はるか Shibuya Haruka

クラムボン:毬谷友子 Mariya Tomoko

青木コンジロウ:佐藤誓 Sato Chikau

車掌・桜の樹:外山誠二 Toyama Seiji

ウサギ:小野ゆたか Ono Yutaka

コンジロウの息子、とらねこ:酒巻誉洋 Sakamaki Takahiro

アネモネ:永宝千晶 Nagatomi Chiaki

ゆきこ(少女時代):池田優佳 Ikeda Yuka

ほか:

山田瑛瑠 Yamada Eru

阿久津秀寿 Akutsu hidetoshi

柄沢怜奈 Karasawa Reina

 

<スタッフ>

技術:西田俊和 Nishida Toshikazu

音響効果:久保光男 Kubo Mitsuo

制作統括、演出:藤井靖 Fuji Yasushi