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【オーディオドラマ】梅雨&六月&七月におすすめ『紫陽花に落ちる』:雨の日は良い天気、雨が好き

オーディオドラマとは……人が演じる声に効果音やBGMを合わせた音声ドラマ作品です。布団に入って眠る前に聞くこともできます。

 

今日は自主制作された良質のオーディオドラマ作品を紹介します。

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1.あらすじ紹介

主人公は雨が好きな高校1年生。国語の授業で物語の続きを考える課題を張り切って提出したもののクラス投票では2位。投票で1位をとったのは親友だった。さらには付き合い始めた先輩との関係をやめるようにも言われ険悪な仲になってしまう

 

友人との距離、恋人との距離、降る雨と夏の兆し。受身で待ってばかりだった主人公が自分から動き始める変化を描くストーリー。自主制作のオーディオドラマ作品です。

  • 雨が好き、梅雨が好き
  • 雨の日は良い天気
  • 紫陽花が好き

そんな人におすすめしたい作品です。

 

2.ここが良い

2-1.紫陽花が好きな気持ちを感じられる

紫陽花が好きな人におすすめのオーディオドラマです。

 

世の中には雨が好きな人に向けた作品は少数派です。「雨の日は良い天気」と感じる人にはピッタリの作品です。

 

 梅雨の雨が好きだ。世間では、じめじめとした嫌な季節だと言われるけど、木々をそっと濡らし静かに降り続ける梅雨の雨が好きだ。

 

 赤、青、紫。紫陽花は時が経つにつれて徐々に色味を増していく。花の色は土の中の成分によって影響を受けるそうだ。だけど私には雨に打たれると色づいていくように思えてならない。

 まるで雨粒の中に色素の素が潜んでいるようだ。

 

 

2-2.ピアノ曲が良い

オープニングやBGMで流れるピアノ曲が作品とマッチしているので自然と物語に入り込むことができます。もちろんこれもオリジナルのピアノ曲です。

 

全体的に落ち着いた展開で進むので、静かなストーリーが好きな人や梅雨の季節が好きな人の感性に響きます。

 

 

2-3.創作の中の創作

作品の中で、主人公が堀辰雄の『曠野(あらの』の続きを書くことが特長的です。その創作シーンが、オーディオドラマとして日常生活シーンと交互に演じられます。展開に変化が出て飽きることなく聞き続けられます。

 

主人公が現実で創作をしたのはおそらく第1部の夫が離れていく場面の続きです。

 

 

3.ストーリーを深堀り!

堀辰雄の『曠野』の物語

紫陽花に落ちる』の中で、堀辰雄の『曠野(あらの)』は大事な作品です。『曠野』は第1部から第4部からなる短編で、日本の古文と現代小説を半分ずつ足し合わせたような作風です。

 

女性は夫を思って「自分が重荷になるのなら別れて欲しい」と言い、夫は「大丈夫だから一緒にいよう」と応えますが、家計が苦しくなってとうとう夫は女性の元を離れます。女性の住む建物や来ている着物もみすぼらしくなり、女性がずっと夫を思いながら泣き続けている作品です。

 

最後に二人は偶然再開するのですが、ようやく再開できた時点で女性が亡くなってしまいます。

 そうして、そこには、自分が横切ってきた境涯だけが、野分のあとの、うら枯れた、見どころのない、曠野のようにしらじらと残っているばかりであった。『曠野』堀辰雄

女性は夫が離れた後もいつまでも夫の通いを待ち続け、受身で周りに流されるままに日常を過ごす姿は、高校1年生の主人公に影響を与えます。

 

感情移入

紫陽花・曠野の女性

堀辰雄の『曠野』とオーディオドラマ『紫陽花に落ちる』との関わりを深堀りします。

 

主人公の感情移入の先はどんどん移り変わることが感じ取れます。最初は『曠野』の女性や、身近な紫陽花と自分を重ね合わせます。

 私の恋愛は現実感の無い夢だと思っている。少女漫画のようにそうそう都合よく目立たない女子とかっこいい先輩が結ばれたりすことはないのだ。でもそれは自分が何もしない事への言い訳だといい加減気付いていた

 私は今まで自分の願望や劣等感を言い訳という嘘で塗り固めて生きてきた。受身になることで大事な選択を他人に委ねてきたのだ。それはまるで曠野の中の女と同じではないか。

 

 実際に起こりえる可能性。夢だと思っていたことが案外手が届く距離にあるかもしれないという予感。そのリアルな手触りに思わず身震いがしてしまう。私は紫陽花の花のように変化していけるのだろうか。

 

泣いてばかり。待つだけの存在。一方的に雨に打たれて何かが自分を変えてくれるのを待つ。動くカタツムリと待つだけの紫陽花。動かない存在。こうした言葉がつながっています。

 

 

雨・カタツムリ

主人公は告白をして付き合った先輩から酷いことをされるのですが、その出来事をキッカケに自分で決めようとする気持ちを持ち始めます。

 

作中の出来事そのものというよりも、「落ち込んでいる時や辛い時には、不思議にやたら世界が綺麗に感じるあの感覚」の記憶が思い起こされる感覚です。

私は水底の魚のように空を這う

柔らかく光る雲の水面は色の無い世界だ

それはとても美しい色だ

キラキラと滲むとても美しい色だった

私は紫陽花に落ちなかった

 

空から紫陽花に向かって落ちてくる雨に対して、いつか乾いて空に浮かぶ涙が対比されていると読みとれます。梅雨の時期に現れていつの間にか消え去っているカタツムリは、雨が降っている中でも雨が止んでも、魅力あるものを探して動きまわる姿を暗示させます。

 

雨も上がり涙も乾けば季節は夏に向かいます。

 

二次創作の曠野の女性・夏の何か

主人公は曠野の続きの創作を、女性が男とは心中せずに一人で生きていく決意をして終わらせます。ここに主人公が動き出す気持ちが表れています。

 

雨が止んで涙が消えて、カタツムリもいなくなり、物語のラストに夏の何かが現れることを予感させます。

 

嫌いだった夏への印象がほんの少し変わり、期待を持てるラストになっているのも良いところです。

 

  • しなやかに変化する紫陽花
  • 曠野の女性のような熱い想い
  • のように洗い流す強さ
  • カタツムリのように興味あるものを探す探求心と行動力
  • 夏の季節に期待を持つ好奇心

いろんな変化を持ち合わせて次の季節に向かうラストシーンはとてもすっきりとした余韻を残しています。

 

4.まとめ

雨の日や雨の季節が好きな人にはとてもおすすめのオーディオドラマ作品です。

 

雨が好きな気持ちに応えてくれる作品です。マイペースで急がなくていいような気持になれます。

 

これだけの作品を自主制作されているのは本当に凄いと感じます。創ろうとした好奇心も完成まで達成する熱量もすごいです。

 

オススメの作品なので、ぜひ一度聞いてみてください。

 

 

5.出演者、製作スタッフ

<出演>

山根明日香:小音(Konon)

沢村奈々:双葉せいか(FutabaSeika)

野村健太:草凪優介(Kusanagi Yusuke)

本田:ゆう(Yuu)

真由:みあにゃん(Mianyan)

岬:あまたの(Amatano)

教師:浅沼諒空(Asanuma Ryoku)

母・曠野の女:石崎海帆(Ishizaki Miho)

父・曠野の男:某猫(Bouneko)

アナウンサー:清水めいこ(Shimizumeiko)

 

<製作スタッフ>

脚本・編集:佐野光陽(Sano Koyo)

イラスト:キクチトシオ(Kikuchi Toshio)

 

<素材提供>

音楽:サウンドオルビス

効果音:効果音源、効果音ラボ、小森平の使い方、ポケットサウンド、ちょい音

 

6.次に聞くおすすめ作品

オーディオドラマ作品はたくさん製作されています。

 

作者は別の方で、自主制作の作品として『ススキ前線』は完成度が高くオススメです。こちらの記事で紹介をしています。