ここ最近は、30代~50代を苦しめてきた長時間労働を規制する反動で「まだやれます!もっと仕事がしたいです!」と希望する人にまであれこれ理由をつけて、管理側が長時間労働に牽制をかけてきます。
多少は体とメンタルに負荷をかけてもいいからフルパワーに近い状態で働きたい
そういうニーズをもつ人を満足させてくれる場所は減ってきています。では、バリバリと働きたい人はどう戦略を持てばいいのかを考えたのが今回の記事です。
特に
- ハードワークの根底に、不安や劣等感やトラウマの影を感じている人
- 燃え尽き症候群になったことがある人
こうした人は、燃え尽きることを見越してハードワークを設計することが大事だと私は考えています。
考えていることを
- ワークライフバランスの罠
- 仕事を減らす死神になる
- 途中で指示待ち労働に切り替えて、雇用保険のセーフティーネットを作る
- 3年後、2028年の雇用保険の改正を見据える
の視点で整理します。2025年の今は、複数の契約で働くことに慣れるための準備期間と捉えています。

- 1.社長の欲望は最優先
- 2.ワークライフバランスの罠
- 3.死神、もしくは思考するバーサーカーになる
- 4.「仕事を減らす感覚」がコンプレックスを解消する
- 5.ガツガツと働きたい人のための職場の選び方
- 6.会社の成長に合わせて働き方を変える
- 7.経験の浅い職務はセルフブラック化して長時間労働で対応
- 8.雇用保険制度が変わる
- 9.ほどほどの労働で、雇用保険日数と生活費10万を稼ぐ
- 10.柔軟に労働強度を変える働き方へ
1.社長の欲望は最優先
ハードワークをしたい人は「どこでハードワークするか?」が大事です。
雇われている以上は、すべての仕事は「経営者の事業のお手伝い=社長の欲の実現のための労力を差し出すこと」です。
そもそも、会社は代表が持つ欲望から始まり、途中で「人を雇いたい欲」が生まれています。
同じように、会社の仕組みのほとんどが管理する側のニーズから作られています。
- 社長は人を雇いたい。
- 社長は管理職に運営を任せたい。
- 管理職はメンバーを楽に管理したい。
雇われる人の自己実現のニーズが満たされるのは一番最後です。
一般社員が
- スキルアップをしたい
- もっと長時間働きたい
- もっと速くいろいろなことをできるようになりたい!
と声に出しても、管理者が「まあまあ、そんなに焦らずに着実に1つ1つやっていこうよ」となだめてくるのは、管理職側の「楽に管理したいニーズ」が満たされていないからです。
一言で言えば「忙しいのに、気まぐれで新しい事を管理している余裕はない」ということです。
社長や上司のニーズは、一般社員の自己実現のニーズよりも優先されます。そのため、他人の欲望を叶えるハードワークをしつつ自分の健康を守るには、どこかで線引きをすることが求められます。
2.ワークライフバランスの罠
「じっくり進めていこう」と上司に言われて「それもそうか、じっくり行こう」とメンバーが思ってしまうことも罠だと私は思っていて、「焦らず、じっくり、自分らしく、がんばらない」ように管理側が仕向けてくることがここ最近のトレンドだと感じています。
そうしているうちに、メンバークラスで「動きが良いあの人がどうせやってくれるでしょ?」や「給料が変わらないのにあんなに頑張っちゃって」と冷めたコメントを放つ人が増えます。「持っている仕事は、仕事がしたい人やAIにどんどん奪って欲しいけれど、自分がサボっていると思われないくらいの仕事は残しておいて欲しい」という気持ちに、多くの人の意識が収束しているように感じます。
「ワークライフバランス」は、長時間労働でへとへとに疲れた人を労り、働きたい女性が働くことを応援するなど「ワーク」に注目する言葉でした。それを、「ライフ」に目が行く定年間近の50代後半の人やワークの少ない新卒社員が使うようになると、「ルーティン以外は何もしない方が得」という認識に向かうのは自然な流れです。
「ライフ99%重視」の水準はどこかと考えると、それは、「暇な姿を見られて無能だとみんなに思われないように、忙しいポーズをとるくらいには余裕がある状態」です。「仕事ができない無能」と見られる恐怖心は働く人に共通してある感情で、社内で「仕事は少ない方が得」を実践している人ほど強まる感情だと想像しています。
矛盾しているようですが、ゆるく仕事をしたい人たちほど、バリバリ仕事を減らす人に感謝を向けることは少ないです。むしろ「優秀さを見せつけて、得点稼ぎをしたがる出しゃばり。実は忙しくない事をばらそうとしている迷惑な人」として、集団で嫌うこともあります。
3.死神、もしくは思考するバーサーカーになる
60歳で定年を見据えている人と、75歳まで現役で働き続けようとする人では、必要な行動は違います。
まだ何十年と働く人が目指す態度は
- 仕事を減らす死神
- 思考しているバーサーカー
だと思います。
「仕事を減らす」は、良い行いのように見えてしていることは死神と同じです。仕事を丸投げされたなら、ボタン一つ押せば終わるように省力化をして人間が関わる余地自体を無くしてしまう。1つの業務プロセスを消すことは、担当している社員の存在意義を揺るがします。
仕事を減らすことは、「目に見える身近な誰かと比べて暇=無能と周りから思われる恐怖心」を刺激します。
安定と現状維持と心の平穏を求める人たちにとっては、「体力と気力の続く限りどんどん働きたい人」は死神であり、大量に考え大量に行動し続ける姿はバーサーカー(=気が狂ったように行動し続ける狂戦士)に見えるかもしれません。
それでも、キャリアの安全性を意識するなら、被害意識を勝手に持つ人に合わせる必要はありません。「暇な姿を見られたら、みんなに無能だと思われてしまう」系の恐怖心は、克服するもので、配慮してあげる感情では無いです。
4.「仕事を減らす感覚」がコンプレックスを解消する
人を朝から晩まで仕事中毒に向かわせるのは、「自己肯定感の低さやコンプレックス」が無意識の領域にある場合もあります。ハードワークの始まりはそれでいいと思います。
自己肯定感がものすごく低い人にとっては、激務で気持ちを紛らわせることは生き延びるための確かな手段です。同じように、生成AIの技術で自分のスキルが無価値になる恐怖心も人をハードワークへ向かわせます。
- ゴール設定
- タスクの分解
- 一緒に働く人へのタスクの振り分け
- 大量行動
- 納期管理
- 入金、支払、利益管理
こうしたことを1人でできるようになると、主体性を手元に感じて、本当に仕事が楽しくやりがいのあるものに変わると思います。
利益に直接的につながらない間接的な業務が増える問題も起こりますが、そこに至るまでには大量行動が不可欠です。「仕事を減らせる自分のイメージ」が自信を生み出してくれます。
5.ガツガツと働きたい人のための職場の選び方
ここまで、ハードワークをする態度を書いてきました。
次に、長時間労働ができない社会に変化している環境で、どうすればハードワークできる職場を見つけられるかという話を進めます。
就職活動をする私たちが見落としがちなことは、「今、企業がどの成長フェーズにあるか」という視点です。
見るポイントは次のフレーズです。
- 業務拡大につき人材募集中
具体的には、事業が波に乗って拡大成長期に入っている組織。管理が追い付かず、制度や業務フローが未整備で職域は曖昧、組織図すらない(事業変化が速すぎて固定する意味があまりない)組織。「思考するバーサーカー(=狂戦士)」と名付けてもいいガツガツした働き方と相性が良いです。
雑用や領域が曖昧な仕事が多いですが前へ前へと物事を進める熱気があります。機動的に動けるところが面白く、黒字ならさらに面白いです。あらゆる雑務が舞い込んでくる中で、専門の仕事もこなしていきます。仕事を減らす感覚が身に付きます。
仕事を減らす能力に不安があるならハードワーク一択です。専門スキルのないうちにワークライフバランスと言っていると、そのライフすらガラガラと基盤が崩れて不安定なものとなります。
6.会社の成長に合わせて働き方を変える
仕事を減らす感覚がついてきたら、仕事の引き受けスタイルを変えるタイミングです。非管理職の立場で管理職に近い働き方を試してみることで、新しい仕事の進め方が身に付きます。
拡大成長期から安定期に入ると、ルーティンを好む人たちも社内に増えてきます。ルーティン業務や成果一定の役割を渡すことで、「暇で無能認定される恐怖」から解放してあげる善行を積めます。
それに、管理職でないなら、空いた時間は人の管理に使わずに自分の専門職域の仕事のために使えます。
そうして、
- 雑務は角を立てずに断り「頼んでも協力してやってくれない嫌な奴」に自分がなる。
- 専門の職域に絞って、職業キャリアに結びつく仕事をする
- 外部にアピールできる実績と社内評価につながる仕事をする
と、ハードワークの対象を絞り、心と体の健康を守る比率を高めます。
組織が小規模であるほど、社長との距離が近いです。異動先の無い組織ほど、上の立場の人に「こいつはどんなに雑に扱っても辞めない」と思われたら負けです。雑な扱いをされ続けて「自分は雑に扱われても仕方がない」と相手の態度を内在化してしまうと、軌道修正には時間がかかります。社長の欲望の実現のためにハードワークを提供するかどうかは、一度立ち止まって考える機会が必要です。
「辞めても次の職場で働ける」というのは雇われる側にとっては強力なカードです。自衛のためには、ハードワークの中身を雑務や調整業務ばかりで埋め尽くさずに、市場で差別化できる専門性の仕事をする時間を意識的に増やすことが必要です。
7.経験の浅い職務はセルフブラック化して長時間労働で対応
経験の浅い職務をこなせるようになるには「数」です。休息ではありません。
長時間労働が辛いのは「やらされ感」が強いことから来ています、また、重たすぎるプレッシャーを常時受け続けている環境では健康は続きません。
これから先、大事になってくると私が考えているのは、複数の職場でそれぞれに労働強度をコントロールすることだと考えています。「労働強度を緩めることが許されない空気感」が、最近の「静かな退職=会社に居ながら頼まれた必要最低限の仕事だけをする態度」を生み出していると考えています。
その根底にある雇われる側のニーズは、「労働の強度を柔軟に変えること」だと私は推測しています。そして、そのニーズを満たすためには、人生のどこかで長時間労働が必要です。
- 初心者
- 定時労働+自己研鑽の長時間労働でセルフブラック環境をつくる
- 仕事を詰め込んで「仕事を減らすハードワーク」ができる自信を持つ
- タスクを切り分けて、人に任せて専門性を高めるための時間を増やす
- 雇用保険の制度を意識して契約を柔軟に選ぶ
こうしたステップをサポートしてくれるのが、2028年の雇用保険法の改正です。
8.雇用保険制度が変わる
ここで国の制度の話をすると、2028年10月1日からは週10時間以上働く人は雇用保険に加入することが義務付けられます。
もう一度文字を見てみると、
雇用「保険」
です。
雇用「保険」は働く現役世代のための数少ない制度です。その最大のメリットは失業給付と教育訓練給付にあると私は考えています。
- 失業給付:失業後約2か月後から、月収の約6.5割のお金が給付
- 専門実践訓練給付金:スキルアップの費用の50%を給付
- 一般訓練給付金:スキルアップの費用が、10万円給付
- 教育訓練休暇給付金:2025年10月~スキルアップのために90日~の失業手当相当の金額が給付
9.ほどほどの労働で、雇用保険日数と生活費10万を稼ぐ
成熟期の企業(成長企業の中でも、仕事の仕組みと業績が安定してきた部署)では、同じようにミスなくコツコツ真面目に(文句を言わず、噛みつかずに)働いてくれる人が重宝されます。
求人に現れるフレーズは、
- 欠員補充
- 任期付き採用(6か月~2年の期間限定の契約)
です。
これらは「事業拡大しなくても、もう十分」というメッセージです。
「モチベーションがそこそこある態度」を見せて、最低限の言われた細切れタスクだけをこなして月10万円の生活費を確保する職場を選ぶことです。これがライフを重視した「焦らず、じっくり、自分らしく、がんばらない」スタイルです。あるいは「責任のあるポジションに疲れたので、一定期間だけ責任の軽い働き方をしたい」ニーズに合っています。
雇用保険のセーフティネットを確保する勤め先として、プレッシャーやノルマの軽い職業を選ぶこともしやすくなります。
- 職業と言うより、ほどほどに働きたいニーズにマッチした会社を選ぶ「就社」という意識。
- 全力で会社の福利厚生に乗っかる。
- 成果一定の細切れタスクを引き受ける
- みんなで、多数決で、時間をかけてじっくり意思決定する。
- 担当はあいまいにしておき、責任もあいまいに分散させる
- 成果よりも仲良くすることを重視する
- シフト制では、自分の勤務時間内にトラブルが起こらなければいいという考え方
「保険」として勤める会社なので、挑戦することよりも、失敗しない事や言われたこと以外は何もせずに、控えめに・邪魔しない・動かない・考えない・問題と感じても問題を指摘しない人の一員として、「(頭の中では色々と考えながらも)一緒になって動かない」スタイルです。雇用「保険」がかかる職場を、週20時間(=時給1,300円×20時間×4週=)月10万円の最低限の生活費を稼ぐ場所として位置付けます。
書き出してみると、意外といいな、と感じました。
- 体とメンタルを壊されない働きやすい環境
- そこそこの労力
- 悪くはない人間関係
- 慣れた同じことをずっとして安定して給料がもらえる
- ハラスメントがあればすぐに抜け出して避難できる
- キレイに切り分けられ、整えられたタスクを受け取れる。
- 月10万円の報酬を、疑似的なベーシックインカムとして位置付ける
- 労力と見返りがいい感じに釣り合っているライス・ワーク
なかなか悪くないと思います。これが、「焦らず、じっくり、自分らしく、がんばらない」スタイルの行き着く先です。
雇用保険目的なら、私が大嫌いなマイクロマネジメントさえ生活費をただ稼ぐだけの職場の管理方法と考えれば悪くないように思えます。言われたことさえしていれば生活費が手に入るのですから。
10.柔軟に労働強度を変える働き方へ
私の考える仕事の面白さは
- 専門職域を未知の領域に拡大すること
- 慣れた仕事のタイムアタック
です。
そこには「労働強度をある程度コントロールすることができる」という自己効力感があります。
令和の今、生活費を稼ぐという意味の「ライスワーク」の解釈を変えると、「雇用保険のメリットを受けるための仕事」と捉えることができます。
その昔、「ライスワーク」という言葉を使う就職支援担当者は多く居ました。「希望は叶えられなかったとしても、仕方なく我慢して生活費のために働くのも立派な仕事」と。その不本意な仕事が1社で40年間ずっと続くことを想像するとゾッとします。
そして、健康に働き続けられることが理想ですが、ハードワークに疲れた時には、雇用保険のかかる労働強度の低い仕事にシフトできるサブの手段があると気持ちも楽です。
- 就職:職業を重視してハードワーク。リスクをとる職業。スキルや専門性の軸を磨く。
- 就社:会社の制度を重視。ベーシックインカムとして雇用保険がかかるライスワークをする。
ジョブローテーションのある大企業に勤めていて、健康的に働けて1社で勤められる将来像と健康の見通しがつくなら、それはとても良い選択をしてきたと思います。
ただ、異動先が少ない中小企業に勤務している場合は、会社を変えたり、複数社での勤務を組み立てたりして、労働強度を調整する方法が現実的です。
仕事は飽きとの戦いです。今は成長フェーズでも、業務フローが安定してくると必ず飽きが来ます。仕事をどんどん進めるハードワークが好きな人は、いずれ社風は合わなくなります。
仕事に飽きてきたら、主要にしていたメインの職務を「雇用保険の日数と月10万円を稼ぐための仕事」に移せるかどうか、人事労務の担当者と交渉をする機会もやってくると推測しています。
- 本業の労働時間を減らす相談をする。
- 元の会社の勤務時間を週10時間以上に保ち、雇用保険がかかる「主たる事業所」の判断ポイントを押さえて、雇用保険のセーフティーネットをつかむ。
- 空いた時間で職域を広げる。
仕事を減らせない恐怖心も、仕事が減っていく恐怖心も、ハードワークをすることで克服できます。スキルや健康面で1社で40年ずっと勤める見通しが立たない人にとっては、「みんなで足並みを合わせてゆっくり進める」は悪手です。
- ゆっくり取り組んだところで、上司は5年後のこちらの状態の責任はとってくれない。
- 人事や役職者は、将来の職業需要を見越した特訓プログラムをお膳立てしてくれない。
- 「経営者の欲望」は「社員の主体性やキャリア安全性」よりも大事にされる。
どれも、「1社で安定して勤める見通しが立たない」という将来像から生まれる認識です。
バーンアウト(燃え尽き)経験のある人や、転職や再就職で労働条件を変える人こそ、雇用保険をセーフティネットとして活用するメリットがあります。雇用保険を上手く使うことで払った税金以上の恩恵を受けられます。
中小企業で燃え尽きずにハードワークを続けるために必要なことは、契約する時点で未来の労働強度をコントロールをすることです。
- 複数の職業、複数の組織で働く意識
- 未経験からスキルを高めるためのハードワーク
- 備えとしての雇用保険
これら3つを揃えることで、雇われる立場からでも、柔軟に労働強度をコントロールする働き方を設計できると考えています。