このサイトでは、医学・心理学・教育の情報を交えて、「発達障害者の仕事術」を紹介しています。
今日の1冊は、成人になってから自閉症(ASD)と診断された漫画家の人が書いた本です。
1.なぜ大人になって幼少期を振り返る「必要」があるの?
発達障害は生まれつきの先天性のものです。スタンダードな「大人の発達障害」の診断は、大人時代の経験と合わせて、子ども時代の経験を医者の先生が聞き取りをして診断がつきます。
こども時代に現れていた特徴を整理することは、大人になったときに形を変えて現れる特徴の理解にもつながります。その理解こそ、仕事をする上での「工夫」や「配慮をお願いしたいこと」、そして「周りの人がサポートできること」の発見につながります。
前回は、自閉症(ASD)の子ども時代の特徴を紹介しました。
今日は、次の1冊の本をベースに、大人時代の自閉症(ASD)の特徴を仕事術という視点から紹介します。
2.大人時代につながる、子ども時代のASDの特徴
2-1 混乱を整理するために並べる
本の挿絵が、混乱している時の頭の中のイメージをとても上手く表していました。マネをしてこんな画像を作ってみました。スケジュール管理をする時に、頭の中がとっ散らかっている状態のイメージ画像です。
並んで整理されていると分かりやすいです。
「ならべる」時は、一つひとつを手にとって確認できるので、とてもわかりやすいです。(中略)確認したモノを並べておけば、まだ確認していないモノとの区別がつきやすく、自分が何をやっているのか、視覚的にわかりやすいんです。(81ページ)
「並べること」は、混乱した世界を整理して、落ち着きを取り戻すための手段かもしれません。
- 状況が変わった時にも、同じ行動を繰り返そうとする。
- 挨拶や口調、話すスピードは常に一定して安定している。
一見すると「私独自の世界」のように見える行動は、「過去にうまくいった、快適で安定した作業手順(パターン)」かもしれません。この手順をスムーズに共有することが、自閉症の人が快適に働くためのポイントになりそうです。
2-2 オウム返しはASDの仕事の天敵!
「オウム返し」は、言葉の意味や、何かの要求に関係なく、単語やフレーズを繰り返す行動です。
大人の自閉症の人の仕事では、次のように、声にした言葉と作業手順の不一致として出てくるかもしれません。
- 「はい、分かりました(=疑問が残っている)」
- 「アポとり、ごみ捨て、書類チェックと修正をします(=どうやって進めるかは後で質問しよう)」
上司側の対策としては、事前に「どんどん頼ってくれて良いよ」と何度も何度も何度もすり込むように繰り返して伝えると、質問がしやすくなって手順を共有できる可能性が高まります。
2-3 過集中による「過剰品質」を予防する
自閉症の人にとって、「過集中」と「やりこみ」は強みでもありますし、状況によっては障害としても現れます。メリットばかりではなく、放置すると「製品やサービスの過剰品質」が起こります。
過剰に品質を高めて、過剰に時間をかけると、
- 作業の遅れ
- 残業時間の増加
- 睡眠不足
- 疲れがたまる
- パフォーマンスの低下
などが発生します。また、やり込んでいる間に他のちょっとした仕事が溜まっていき、スケジュールが「ごちゃごちゃ」とする原因にもなります。過剰品質は防がないといけません。
具体的な対処法は、報告するタイミング・終了条件・合格ライン・評価方法をハッキリと共有することです。作業の認識のズレや手戻りを防ぐことは、病気に関係なく大事です。
2-4 忘れ物/忘れ事は、記憶よりも「理解」が要因
時間割表に「国語」と書いてあっても、「国語」というグッズがあるわけではありません。(103ぺージ)
これこそ、言葉(=ラベル)と実態の結びつきが「ごちゃごちゃ」になっている様子を表す名フレーズだと、私は感じました。
大人の発達障害の人は、問診で「子どもの時に、学校の忘れ物が多くなかった?」と聞かれませんでしたか?この質問は、記憶力に加えて理解力・状況把握力・言葉と実物を結びつける力・適切な連想力などを確認する要素も含まれています。
2-5 怒られ怒鳴られた記憶だけ残り、内容が残らない
まず、怒鳴る人の目的は、相手を支配することです。恐怖を与える怒鳴り方は、短期的には相手を思い通りに操れますが、中長期的な信頼関係をボロボロに崩します。
大きな声でしゃべられたら、その情報は私の頭を素通りしてしまいます。「あ、大きな声だ」という認識しかできません。だから、私や私と同じ傾向にある人に、大きな声で怒ったりしても、あまり意味がないのです。(98ページ)
障害のあるなしに関係なく、一度「無理な人」に認定されたら、評価をひっくり返すことはなかなか難しいです。まずは安心感を感じてもらうことが、信頼関係や自信につながり、パフォーマンスを高める結果につながります。
こうした考え方の基本は、ビジネス書では『心理的安全性』と、教育本では『叱る依存が止まらない』という本の中で言語化されています。
3.発達障害の仕事術をどんどん集めよう
発達障害者に効果がある仕事術は、一般の大勢の人にとっても効果があるものが多いです。例えば、
- 指示する人が決まっていて、混乱が少なく落ち着いて働ける。
- 合格ライン・評価方法が分かりやすい。
- 加点評価で、挑戦してやりがいをもって働く。
- 職場に大声でキツく怒鳴る人がいない。
など、障害名のあるなしには関係ないように感じます。
自閉症(ASD)の部下がいる上司や、当事者の人にとって、「子ども時代の特徴」と「大人時代の特徴」を知ることで、楽な情報伝達の方法を考えることができます。
今ここで、将来に楽をするために、すこしだけ努力の方向性を変えてみることを提案したいです。ずは、読みやすいこちらの本で、自閉症の子ども時代・大人時代の両方を知ることがおすすめです。特徴への理解が進みます。
4.まとめ
自閉症(ASD)の特徴は、多かれ少なかれ幼少期から現れています。成長に伴い、社会に適応して見えなくなることはありますが、完全に消え去るわけでもありません。
職場で健康に過ごすためにも、まずは、子ども時代に目立って現れる自閉症の特徴を知ることから始めてみましょう。
次の記事では、特にクローズ就労で活かせる、マルチタスクや優先順位を付ける負荷を減らすための「超スピードシングルタスク」を考えます。