このサイトでは、医学・心理学・教育と発達障害(主にASD・ADHD)をテーマに、定期的に記事を作成しています。
今日の本は、成人になってからASDと診断された漫画家の人が書いた本です。
「診断済みの当人」や、「自分が発達障害かもしれない人」や「診断は付かなかったけれども、グレーゾーンという自覚をもっている人」にとって、理解を深めることができる1冊です。
1.著者はどんな人?
著者は、30歳を過ぎてからASD(自閉症スペクトラム障害)と診断を受けた人です。自閉症のあり方を深く知るための団体である「くれよん」で活動をしています。ご本人が高機能自閉症(※)でもあります。
※「高機能」とは、知的障害ではないという意味です。
2.読者対象
読者対象としては、
- 自閉症の当事者(小学生/中学生/高校生/大学生など)
- 自閉症の子を理解したい大人
- 成人済みで、自分がグレーゾーンではないかと疑っている人
が適しています。
ASDの人の特徴や経験を知りたい場合にオススメです。この本にはADHDと知的障害の話題はほとんど出てこないですが、共通する点があるので参考にできます。
3.内容の特徴は?
イラスト付きで「ASDあるある」がわかります。ASD特有の感覚(まぶしい、うるさい、ココが嫌だ、これは安心・好き)に気付けるかもしれません。
- どんな行動をしていたか
- どんな考えが頭の中にあったのか
- どういう状況で不安が増していたのか
など、自閉症の特徴への理解を深められるかもしれません。
「こうすればよくなる!」といった、魔法のノウハウを書いた本ではないので、そこは期待しないことが大事だと思います。
4.診断されない子の感覚
この本は、自閉症と診断されず、合理的な配慮を受けられない学校で10代を生きぬた人のサバイバル体験記だと感じました。
感覚過敏
- 音が心に刺さっていたい
- 自分に向けられた言葉じゃなくても痛みは同じ(先生が誰かを叱るとき)
思考の混乱
- いろんなことが視覚的に忙しすぎて席に着いているのが精いっぱい
よく転ぶけれど、運動が得意で好き
- 具体的に理屈で教わることができた
その頃はそれを、ツライなどとは思っていませんでした。他の人たちもみんなそんなふうに過ごしているのだろう…と漫然と思っていたからです。でも、「なんだか、私は「ウマクやっていけてないゾ…」という不安は常にありました。(6-7ページ)
「しんどいのは私だけだった」と早めに気づければ、不要な苦痛を受ける時間を減らせるかもしれません。
私は、苦痛を耐え抜くタフさよりも、周りの協力者の力を借りて、苦痛を避ける工夫ができる方が、よっぽど将来の役に立つように思います。この本はそのヒントになってくれます。
5.自閉症の人の強みと仕事
パターン化
私が注目するのは、「理屈でわかる」という書き方でした。小道モコさんは「ぶつかるけれど体操は好きで得意だった」なんです。
私なりに言い換えると、「理屈で説明する」とは「こうすれば→こうなる」というパターン化ではないかと考えました。
できるようになる段階は、
- 集中することを許される時間や、物理的な空間がある。
- 1つずつ順番に、「説明とやってみる」を交互に行う
- 本人が好んで、何度も繰り返す。
だと思います。パターンの繰り返しは、集中(ときに過集中)との合わせ技で、熟練の技術にもなりそうです
集中・くり返し練習
パターンが身に付いて以降のくり返しは、自閉症の人の得意とするところかもしれません。
- 練習教材や学ぶ対象を見て、何度でもお手本にできる
- 致命的ではない失敗体験ができる
- リアルタイムのフィードバックがある
などがポイントだと思います。
仕事の需給
もう一つ大事な要素が、「仕事の需給」だと思っています。「どの職業が将来不足するか」を考えて、それにマッチした学習をすることも効果的かもしれません。
- 習い事や家庭教師などで、お金をかけること
- ネット上の無料学習教材を使いこなす能力
- 自分で練習教材を作る力
私は偉そうなことは言えませんが、「2」の力はこれからどんどん必要になると考えられます。「3」も自閉症の人にあるといい力のように考えています。
大事なことは、パフォーマンスを発揮することですので、「いつもの、安定した環境や、多少変化しても心構えができる、パターン化された行動」を行えるようにする工夫があると良いかもしれません。
最後に、お手本となる人を決めることと同じくらい、有害な影響を与える人物から離れることも大事です。子どもの周りの「毒」を持つ人の関わり方が、どんな影響を引き起こすのかこちらの記事で案内しています。
6.まとめ
発達障害と診断されなかった子が、学校で感じる違和感や苦労が書かれていました。
それを受けて、職業能力につながる強みを作るための、楽しみながらの「パターン化・集中・繰り返し」を考えました。
自己理解や、グレーゾーンの人が幼少期を振り返る時に活用できる1冊でした。
この記事は、「大人編」の考察に続きます。