「目」の認知機能を紹介するシリーズです。医学や心理学の内容を踏まえて、日常生活をちょっと良くするアイディアを紹介します。毎週火曜日に発信することを目指しています。
今日は、先週に引き続き「発達障害とグレーゾーンを解釈する」をテーマに、発達障害の人達が目線を合わせないと言われやすい要因を探り、お互いが上手く「交渉」を進めるための方法を考えます。
- 1.過剰適応や過剰同調でヘトヘトになる発達障害者
- 2.目線を合わせない理由はどれ?熱中・逃避・感覚過敏・感覚鈍麻・注意力の低さ
- 3.過敏さと鈍感さはミックスされている
- 4.叱ることは役に立つ?
- 5.当たり前がしんどい
- 6.「私コミュ障だから」という人の罪悪感を、加害者は見逃さない
- 7.「目を合わせる/合わせない」は本質ではない。本当の問題点
- 8.まとめ
1.過剰適応や過剰同調でヘトヘトになる発達障害者
「自閉症と診断済みの方が、目線を合わせてスムーズにコミュニケーションをとれている」と言うと、驚くでしょうか?
「コミュニケーションの障害・社会性の障害」というと、場違いなことを言ったり、相手を傷つける言動が多いイメージが浮かぶかもしれませんが、全員がそうではありません。むしろ、大勢の人が努力をして相手に合わせようと頑張っています。
実際、発達障害の人達は「空気を読もうとしない」のではなく、「空気を読み過ぎて、何通りもある選択肢から、適切なものを選びだすことが素早くできず、ヘトヘトになっている」ことがあります。頭の中の行ったり来たりの思考が表立って見えないだけで、過剰すぎるほどに内面で同調性を発揮しているかもしれません。
目を合わせて話すスタイルが常識という人たちにとっては、相手が合わせてくれるようになれば「成功」でしょう。しかし、多数派による常識の過渡な一般化が、「厳しくしつける・いじめて気づかせる」という形式で正当化されてきたのも事実です。
コミュニケーションスタイルの良い悪いの判断をする前に、「どうして目を合わさないのか?」を考えてみると、見た目には表れない、発達障害者の人並み以上の努力が明らかになります。
2.目線を合わせない理由はどれ?熱中・逃避・感覚過敏・感覚鈍麻・注意力の低さ
人が目線を合わせない理由を、パターンに分けて考えてみます。
2-1 最も分かりやすい「過集中」
最も分かりやすいのは「他のものが目に入らない過集中の状態」です。
「熱中」としての視線固定
発達障害の人は、「過集中」と呼ばれる状態になることがあります。注意力がとても強くなっている状態で、シングルフォーカス・シングルタスクとも言います。関心の高さに比例して熱中するので、うまく特性と環境が合わさった時には、人並み以上の成果を上げられます。
一方で、特定の対象に注意力を注いだ分だけ、他の対象への注意力は抑えられています。マルチタスクの作業では注意が分散されてしまい、パフォーマンスが落ちる可能性があります。
特に会話はマルチタスクで、
- 理解(表情・目線・話の要約)
- 表現(話す内容・順番・話す口調)
- 相手の話すことへの柔軟な対応(リアクションの観察・表現の微調整)
などがあり、目線のことだけに注意を向けることが難しいです。
2-2 分かりにくい「逃避・感覚過敏対策」としての視線そらし
逃避
「過集中」から考えてみると、視線をそらした状態は「視線を合わせる以外の何かに集中している状態」とも言えます。
集中の対象は、目に見える物だけとは限りません。例えば、
- 人と目を合わせるときの不安
- 怒られる恐怖
- ミスへの罪悪感
- 見た目(容姿や動き方)の引け目
などが気がかりな時は、注意がいろいろと分散されて、相手への対応がおろそかになる場合もあります。
その人が、感情でも物でも、目線を合わせないで何の対象に注意力を向けているのかは、実際は質問してみないと分かりません。変化の無い表情から気持ちを見分けることがとても難しいことは、前回の記事で書きました。
その人にとってトラウマになった出来事に思いを巡らしてみると、逃避の手掛かりがつかめるかもしれません。
感覚過敏
発達障害の人の多くには、感覚過敏があると言われています。感覚は人によって感じ方が違います。
私たちが何とも思わない刺激を、感覚過敏の人は大きな強い刺激として受け取ります。たとえば、部屋の蛍光灯が太陽を直接見たときのようにまぶしく感じたり、エアコンや鉛筆で文字を書く音がパチンコ店や工事現場のそばにいる時のようにうるさく感じたりします。
人は誰でも、気がかりなことがあると目線は泳ぎ、うるさい音や眩しい光には目をギュッと細めて、聞くことに集中したいときにはまぶたを閉じて刺激を減らそうとします。感覚過敏も目線を合わせない理由の候補です。
ぜひ一度、その人の過去の出来事や、部屋の環境にも目を向けてみて下さい。「不安の対象はあるだろうか?熱中している対象があるだろうか?」または「光が眩しすぎないか?音がうるさくて声が聴きにくくないか?」など、影響している要因がみつかるかもしれません。
2-3 「反応の持続力」の弱さ
刺激を感じ取る感覚が低かったり、注意力が続かない場合は、目線を合わせようと意識し続けることが困難になります。
感覚鈍麻(かんかくどんま)
目線を合わせない、というより「反応をしない状態」は「感覚鈍麻(かんかくどんま)」の可能性もあります。特に幼少の発達障害の子どもさんは、刺激を受けとる感覚が弱く、一定の強さの刺激でないと反応が起きないことがあります。
全く目が見えないとか、耳が聞こえないという事ではなく、刺激に対する感度や注意力が弱い状態です。机に座っている時の「とろーん、だるっと、ふにゃふにゃ」などのイメージです。椅子に座っていられないとか、体幹が崩れやすいなどです。
注意力の低さ
元々の特性として、1つの物事に注意を向け続けることができない状態です。突発的な出来事が舞い込んでくると、今までしていたことを中断してしまったり、気がかりなことがあると注意がすぐにそちらに移ります。
3.過敏さと鈍感さはミックスされている
人によっては、鋭敏さと鈍感さを同時に持っていることがあります。本人が言ってくれないと対応が難しいのですが、まず最初に試すなら「刺激を減らすこと」がおすすめです。
地道なヒアリングをして快適な空間が作れたら、それはほかの人たちにとっても過ごしやすい場所になります。仕事を1つずつ分けて渡したり、イヤホンを使うことを許可したりと、少しずつ試す価値はあります。その人の特性を認めて場を創ることは、神経学的多様性(ニューロンダイバーシティ)と言い、この考え方は今後も広まっていくと見込まれます。「刺激の引き算」が大事です。
そして、その真逆の対応が「叱ること(怒鳴る・詰める)」です。発達障害の人の脳に強烈なトラウマを刻みこんで、短期的な成果を引き出す代わりに、長期的なパフォーマンスを下げる劇薬です。
4.叱ることは役に立つ?
「叱る(怒鳴る・詰める)」ことは、支配するための手段です。
発達障害の人は、嫌な記憶が頭に残りやすい人もいます。強く叱れば、一時的には言われたように動きますが、恐怖とトラウマが刻み込まれます。
そこに納得や信頼関係はありません。
強烈に叱られた側は「叱られないように動こう」という考えへの脳内過集中を生みます。叱られないように……叱られないように……叱られないように……と、その思いに集中をすればするほど、本当に必要な目の前の物事への注意はおろそかになります。
そうは言っても、叱った人も、ついつい感情に任せて叱ってしまい、後から後悔することはあります。何回言っても聞いてくれないから、ついつい叱ってしまう、などとモヤモヤした感情や悩みを持っている人にとって、この本の中身は参考になります。
わかりやすくて、気持ちがスッと整理されて、とても良い本ですよ。
5.当たり前がしんどい
発達障害者の過剰適応は、もともとのユニークな感覚の感じ方を自己否定することにつながり、相手への依存を引き起こします。
過剰適応の人が大変に感じるのが、ゴールだと思っていた姿が、自分以外の多くの人たちにとっては当たり前の姿に過ぎず、思っていたゴールが実はスタートラインだったという時です。
10kmのマラソンをへとへとになって走り終わったと思ったら、そこから元気満タンの人とのさらに10kmの自転車競技や水泳が始まるようなものです。1種目だけだと思っていたら、実は3種目のトライアスロンだった、なんてことが、過剰適応の世界ではザラにあります。(私個人の感想ですが、過剰適応して頑張った人が、適応障害やうつ状態と診断されて、発達障害も同時に見つかったという流れが多いのかもしれません)
一般的にスピードやリアルタイム性が求められる、雑談をする・一緒にランチを食べる・ラインをすぐに返すなども過剰適応や過剰同調の対象になります。
6.「私コミュ障だから」という人の罪悪感を、加害者は見逃さない
世の中には、人を自分の思い通りに支配したがるパーソナリティの人がいます。攻撃的な加害者が好んで使いたがる言葉が「コミュニケーション」です。「ふつう・常識・当たり前・みんなが」という言葉を多用して、相手に「外れている」と罪悪感を感じさせて自信と判断力を奪って迷わせます。洗脳やマインドコントロールの手法でも使われるように、弱ったところに、もっともらしい単純化された言葉を繰り返し与えて、思想を植え付けて支配を進めます。「コミュ障」と誰かが言うとドキッとしますが、この言葉にはうまく集団の中に隠れた加害者の欲望が込められています。
支配的な人は「コミュニケーションの障害」という単純な言葉を武器に、発達障害の人の思考を支配しようとします。それを真に受けて、本人でさえ「自分にはコミュニケーションの障害がある」と卑屈になってしまうこともあります。まして、他人からの借り物の言葉である「コミュ障」や「陰キャ」で自分自身を説明した気になっているなら、加害者に土下座している状態と同じです。
厳しめに言えば、過剰同調をしている発達障害の人には、交渉のための言葉が不足しています。10代でも20代でも30代でも、自虐をして「わたしコミュ障だから」と言っている限りは、加害者が押し付けてきた単純な言葉に依存して、自分の頭で考えられていません。「無理やり罪悪感を植え付けられて、支配され、つけこまれている状態」です。
交渉ができずに相手の言い分を受け入れてばかりだと、お金を巻き上げたい詐欺師や、誰かの欠点を矯正したくてウズウズしている人がこの先の人生で何度も近づいてきて、そのたびに損をしてしまいます。
順応とか適応を第一に考えるからしんどいんです。本当に大事なのはお互いのスタイルの交渉です。だからそのために自己理解が必要になります。
1回うまくいかなくても、またほかの人と「交渉」できる場はたくさんあるので、へこたれずにいきましょう。仕事も、趣味の人間関係も同じです。
ですので、急いで「目線を合わせているように相手から見えるノウハウ」を手に入れようとする前に、「目線を合わせないスタイルでコミュニケーションをとっても良いかどうか」を交渉することが先だと私は思います。その交渉のために、合理的配慮やサポートがあり、カウンセラーをはじめとしたいろいろな大人の協力者がいて、味方になってくれます。受けられるサポートは全部受ける、ぐらいの気概で強くいればいいです。
リンク・発達障害グレーゾーンの相談もできるカウンセリングサービス「かもみーる」
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7.「目を合わせる/合わせない」は本質ではない。本当の問題点
目を合わせる/合わせない以前に、目線課題の本質は(1)加害者の存在、(2)当人の目線に対する自覚のなさ、(3)お互いの交渉の場がないこと、の3点だと考えています。そして、次の行動が必要です。
- 「目を合わせない人をみんなで攻撃したい」という欲望を抑えきれない加害者の特徴と対応策を、被害を受ける前に知識として知る。
- 当人が、自分が目を合わせないスタイルをとっている事実を自覚する。(※良い悪いの判断は別)
- 目を合わせずにコミュニケーションをとるスタイルでやりとりができるかどうか、お互いに交渉をする場を作る。
「相手にとっての不快」という分かりにくい説明ではなく、最悪の人を想定した「悪意や加害欲をもって近寄ってくる攻撃者」についてのレクチャーを当人が受けることで、角が立たないように断るスキルの必要性も意識できます。
攻撃者を理解するための本として、最初に読んで欲しい3冊をピックアップしました。本の中には、同僚や近所の人をおとしいれるために、言葉でだます人が登場します。知らなければ加害者のカモにされます。
まずは知識として知って、そこから対策としての行動につなげてみましょう。
8.まとめ
発達障害者に多いとされる「目を合わせない行動」について、私なりの解釈をしました。そして、味方を多くして「目線を合わせないコミュニケーションスタイル」を交渉することが必要だと説明をしました。
次回(7/26)の第3回では、「攻撃を意図しない発達障害者の目線と、相手を攻撃したいパーソナリティを持つ人の攻撃的な目線を分けること」について考えます。目を合わせない、あるいは、じーっと見てくる人の意図をどう判断すればいいのかを考えます。
さらに、相手や道行く人からの視線や、自分自身の視線に悩む方にとって、人と会話するときの緊張を減らして和らげるお助けグッズも紹介します。