このサイトでは、「性教育」をテーマに記事を投稿しています。
「性=セックス」ではなく、「性=ライフ(命、生活、人生)」の視点で、本紹介を中心に金曜日に投稿しています。他に、10代から使える勉強法の記事も投稿しています。
2022年の今、学校任せにしない、家庭での性教育が話題になっています。
今から約20年前に、養護学校での性教育の指導方法が教育委員会や都議、そしてマスメディアからパッシングをされて以降、全国の学校での性教育は消極的に行われてきました。まさに今、その反動が来ています。
多様性が叫ばれ、男女お互いに共通の知識をもって男女の役割や性自認などの性の価値観を新しく広げようとするムードが盛り上がっています。
今日は、知的障害や発達障害などの障害をもつ子の性がどうなっているかの、ほんの一部を案内します。
- 1.ライフスキルとしての性教育
- 2.日本の性教育と七生養護学校の裁判
- 3.知的障害者と発達障害者の性知識
- 4.障害があっても無くても、性の知識は「なんとかして」教える必要がある
- まとまらない言葉のまとめ
1.ライフスキルとしての性教育
マイノリティに力を与えてくれるのは、多様性推進のムードです。性教育が注目を集めている背景には、多様性の推進も大きく関係していると考えられます。
多様性を象徴する事件としては、アメリカで黒人のジョージ・フロイド氏が白人の警察官に暴行され死亡した事件を私は思い出します。2020年5月25日に起こったこの事件の後にBLM(=BlackLivesMatter)が掲げられて、デモ行進が行われている様子を大手メディアが躍起になって報道していたのを覚えている方も多いと思います。
日本でも、多様性推進の下で、ハーフやLGBTQ+の啓発活動も進んでいます。学校ではスラックスとスカートどちらでも選べる制服を採用するところが増えています。
「性=セックス」ではなく、「性=生き方」として捉えるコンテンツが増え、障害を抜きにしても性教育への関心は高まっています。
2.日本の性教育と七生養護学校の裁判
日本の養護学校、今で言う特別支援学校では、1990年代から高等部で実践的な教育が進められるようになりました。
日本の性教育の進む未来を決めたのは、2003年、東京都の七生養護学校で起きた出来事でした。
この学校では、障害者に対して先進的な性教育が行われており、他校の評判は良かったようです。ところが、その指導方法に対して教育委員会や都議、マスメディアがバッシングを行い、教材は没収、七生養護学校での性教育は中止されてしまったのです。
後の裁判では、原告である当時の校長と教員らが勝訴したのですが、その後の日本の学校では性教育が自粛され、それまで行われていた性教育の研修や講演は下火になっていきました。
その後、大手メディアが性教育を取り上げない状態は長く続きました。学校からの広報は消極的になりましたが、特別支援学校や放課後デイサービスでは、人知れず現場のスタッフの人たちが真摯に対応を続けてきました。
知的障害や発達障害傾向の子どもたちにとって、自身の健康を守るための性教育は欠かせないものです。特に女性の場合は、妊娠という命に関わる性の知識は必要不可欠です。どうすれば子どもたちに理解してもらえるのか、様々な工夫が努力してされています。
3.知的障害者と発達障害者の性知識
障害者の性は、どんな実態があるのでしょうか?
中公新書ラクレ『パンツを脱いじゃう子供たち』から見てみましょう。前提の知識としては、ここに上げた事例の「主語」は女の子と男の子の両方が当てはまります。決して片方だけではありません。また、言葉の理解力については重度障害から軽度障害まで幅が広いです。
そして、上手く環境に応じて行動を変化させる方法論も研究発表がされています。
<障害者の性に関するトラブルの事例>
次のような性のトラブルが起きています。
- 人前で服を脱ぐ
- 人前で性器に触れる
- 異性の職員に対する接触
- 性器への自傷行為
- 初潮・生理のトラブル
- SNSのトラブル
障害特性がみられる子の中には、自分のボディイメージが曖昧で、感覚の入力にムラがある子もいます。
ボディイメージが不十分であれば、当然ながら自慰行為もうまくできない。(中略)強さもわからないので、必要以上に力を入れてしまい、身体を傷つけてしまうこともある。(187ページ)
<障害者への指導方法の一例>
公認心理士・臨床心理師・理学療法士・作業療法士・言語聴覚士などの専門家が行い、特性によって効果に違いがありますが、一覧を挙げると次のような方法があります。これらは、性教育に限定せず、生活スキルやコミュニケーションスキルの向上を目的としても実施されます。
- ABA(応用行動分析)
- TEACCH(ティーチ)
- 感覚統合療法
- SST(生活技能訓練)
- 家族療法
- 投薬治療
- 機能代替アプローチ:ICT機器等を使う
4.障害があっても無くても、性の知識は「なんとかして」教える必要がある
人との接し方や性教育の知識は、ひとり部屋に放置して勝手に身に付くことはありません。ネットでは、正しい信頼できる情報にたどり着けないこともあります。
性に関する振る舞いを、「問題行動」としてではなく、「本人の成長の機会」として捉え、保護者と職員がつながり、支援の質を高めあう機会として活用すれば、障害のある子どもの社会的自立の実現にとって、プラスになるはずだ。(126ページ)
グレーゾーンを含めて障害がある人は特に、大人からの働きかけで「なんとかして」性の知識を教えることが望まれます。
まとまらない言葉のまとめ
大っぴらにメディアに表れなかった障害者の性の課題は、2020年代の今になって少しずつメディアに現れてきています。
知的障害、発達障害者をはじめ、ALSや交通事故後の下半身不随の方など……SNSやブログの普及によって、誰も知らない暗闇から日の当たる世界に再び戻ってきています。
障害者のあるなしに関係なく、性の知識をライフスキルとして捉えて、信頼できる情報にアクセスしやすくすることが、多くの人がしなやかに上手く生きる基盤を整えてくれます。
引用・参考にさせて頂いたのはこちらの書籍です。
『パンツを脱いじゃう子どもたち』
著者:坂爪真吾(Sakatsume Shingo)
出版社:中公新書ラクレ
初版:2021.11.10