半年ぶりくらいに小説を読みました。
辻村深月さんの『ファイア・ドーム』です。
2026年6月5日に出版された最新作です。
「地方都市・うわさ・事件」。広告で見かけたキャッチコピーに引き付けられました。
実は少しだけ期待外れだったことがあります。私がこの本を読む前は、会社組織や、地域や、SNSやもう帰ってこない学生時代の頃の「うわさ」に対して、主人公がどうにかこうにかして解決する物語を想定していました。
主人公に「ヒーロー・ヒロイン」の役目を担ってもらって、うわさ話をされている苦境からどういうふうに抜け出すのか、その立ち振る舞いのモデルを見せて欲しいという気持ちがありました。
この多くの感情が混ざった願望、無力感や気恥ずかしさや怒りを向ける先に実体がないもどかしさを、主人公がどうやって解消するのかを見たかったんです。
その期待は良い意味で叶えられることはありませんでした。
この小説のジャンルはミステリーで、事件の解決が主人公の心情の変化に直結します。主人公があがいて解決策を見つけるというよりも、事件の解決という外部要因が安心感情を生み出しています。
キャッチコピーには「うわさ、地方都市」が宣伝用に使われていますが、「地方にある会社で悪い噂を流されて辛っ」という状況の人を救う物語ではありません。
勝手に膨らんだ噂で孤立していく絶望感を書ききったことはこの小説の注目する点だと思っています。孤立した時に向き合ってくれる人がいることで心の一部が満たされる感覚も小説のハイライトシーンだと感じます。
悪気のない好奇心に任せた噂話の対象になって絶望していく人の物語が「ここ」にある、SNSやネットのどこかではなく「ここ、この本の中にある」と感じられる物語を残したことは、作者の辻村深月さんの功績だと感じます。