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いじめは構造、データを読む 『いじめを生む教室』(荻上チキ)を読んで

著者の萩上チキさんは、「いじめが『脳や尊厳への暴力』であり、個人的な体験を社会的な言葉にしてくれる学問の蓄積は、それ自体に癒しの効果があると書いています。

 

いじめは「いつでも、どこでもある」という認識から、「いつ、どこで」あるかを知ることで、その構造を少し理解することができます。一筋縄ではいかない問題ですが、40年以上かけて着実にいじめ研究は進んでいます。

 

1 いじめの発生点を過去のデータから予測する

1-1.いじめの量的データ

本の中では、根拠となる数値がしっかりと示されています

  • 日本の場合、教室と廊下で多く、昼休みと休み時間にいじめが増える。
  • いじめは生徒の9割以上が体験する。
  • いじめを教師に相談して、教師が介入することで、63%は改善に向かう。
  • いじめの認知件数は6月に一度山がある。8月の夏休みを挟んで9月から11月にかけてピークを迎える。
  • 概ね1か月~3か月続く。

いじめは、ほとんどの学生が経験する事柄ということが分かります。

 

1-2.いじめの質的データ

  • いじめには「暴力系」と「コミュニケーション操作系(からかう・無視する)」がある。
  • ネットいじめは、それ単体では起こりにくく、教室でのいじめから派生する。
  • 吃音、発達障害、LGBTQ+、外国人児童はいじめ被害のハイリスク層である。
  • 体罰を行い、抑圧的な態度をとる教師が受け持つ教室ではいじめが多い。

これらも統計に基づいて説明されています。

 

2 いじめの理論 4層構造でいじめモデルを理解する

本書でも引用されているいじめのモデルとして、森田洋司氏の「いじめ集団の4層構造モデル」があります。

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森田洋司『いじめとは何か』(中公新書、2010) いじめ集団の4層構造モデル
  • 観衆:はやし立てたり、面白がって見ている。加害者に同調・追従していじめを助長する。
  • 傍観者:見て見ぬふりをする。加害者側にはその態度は暗黙の了解と解釈され、結果的にはいじめを促進する可能性がある。年齢が上がるごとに構成割合が増える。

 

荻上チキさんは、観衆と傍観者に焦点を当て、いじめを抑制する役割についても説明しています。

  • 仲裁者:「やめようよ」と言って止めようとする。
  • 通報者:当事者の代わりに、適切な人にSOSを伝える。
  • シェルター:「自分はいじめに関わらない。あなたの友人である」と相手に伝える。いじめ問題は解決できないけれど、いじめによって受けたストレスを解消する、あるいはいじめを行う人ばかりではないと感じてもらう。当事者の自尊感情や居場所の喪失感を緩和することができる。
  • スイッチャー:それとなく話題を逸らしたりすることで、コミュニケーションの流れを転換させる。

オレンジ色,丸,水彩 

早期対応によって被害者側に与えられる効果についても、少し長いですが引用します。

いじめがなくなってはいなくても、「これから解決するために証拠を集めている」と思えるだけで、子どもの自尊心が受ける傷の程度は大きく変わってきます。いじめを受けている段階では、それがどれだけ不当なものであったとしても、子どもは「もしかしたら自分が悪いのかもしれない」という自己否定の感情をぬぐえません。しかし、教師など身近な大人が味方になり、「解決モード」に導くことによって、そうした自己否定感情が育たないようにすることができるという効果が早期対応にはあるのです。(141頁) 

いじめを抑制する上では、これらの被害者を助ける役割を増やすことが大事だと説明されています。

 

 

3 道徳教育と実際 いじめは悪いけれどセーフ

もう一つ、この本で得られる重要な視点は、加害者がいじめは悪いことであると、懲罰を受ける前に、すでに認識しているという点です。

いじめは「悪い」ものだけれども、ここまでは「セーフ」。

いじめは「悪い」ものだけれども、今は「セーフ」。

と、程度や他人の目線から、どこまでならやっても怒られないかを判断しているのです。(128頁)

つまり、いじめ問題における加害者の問題点は、道徳的思考の欠如や道徳教育の不足ではなく、いじめを悪いと認識しながらも加害行動を抑制できないという点にあります。他人の目線とセーフ判定が密に関わっている以上、周囲の環境要因にも目を向ける必要があることが示されています。

 

4 考察:囲い込みを抜け出すために。収入と学びの保障

私自身は、いじめを含めた抑圧的なパワーバランスの関係から抜け出すために、次の3点が大事だと考えています。

  1. 道徳教育よりも、行動に移せるいじめ教育(発生数や解決方法の提示・相談窓口の案内)をすること
  2. 学びのスタイルを複数選べる選択肢があること
  3. 学びの結果として、お金を稼ぐ複数の手段を獲得すること。

 

いじめを始めとするアンバランスな力関係の固着は、人間集団の囲い込みの内で起きます。学びの機会や、学費となる収入を保ちつつ囲い込みから抜け出すには、それなりの資金が必要です。

 

私が薄々と感じているのは、「いじめを解決しても、わかりやすくお金が生まれない」ということです。その状況を踏まえて、いじめの構造問題の解決に、お金を発生させる要素を絡めることはとても大事なことだと考えています。お金といじめ対応を結びつける考察は別の記事に続きます。

 

<テキストの参考文献・引用>

『いじめを生む教室』 荻上チキ PHP新書 2018年7月初版

<図の参考文献>

『いじめとは何か』 森田洋司 中公新書 2010年7月初版