本当にニュースは見る価値ある?
と問いかける一冊です。
本に書かれた次の言葉が響きます。
新聞の売り上げにつながるものはすべて、「伝える価値のあるもの」と見なすようになった。(中略) 重要かどうかとは関係なく、新しいものを重要なものと称して売る (p.43)
地球の面積が4倍になったら、ニュースの数も4倍になるでしょうか!?
この本は、小説とビジネス書が、ブレンド・ミックスされたような一冊です。普段はどちらか片方だけを読んでいる人も、十分に楽しめる一冊です。
1.内容の要約・解説
「ニュースは観るな」
本当にそれだけです。
ですので、要約にはこだわらずに、著者の多彩な表現を楽しみましょう。
2.読み方を提案!
①小説として面白く読む
表現やたとえ話が豊富で、本当に興味深いです。
普段から、小説が好きで読んでいる人なら、娯楽感覚で読み進められます。ニュースを聞いたときに、私たちの心がどのように変化するのかを、ストーリー風に解説しています。
普段読書をしない人でも読みやすい本で、私たちの生活の中の「あるある」が書かれているところも親しみやすいです。
仕事に疲れたときにちょっと休憩しようと(中略) 自分を"ねぎらう„ために、軽い気持ちでスマートフォンでニュースを読んだり、ソーシャルネットワークのニュースフィードを見たりする(p.88)
読んでいると、「これって、もしかして自分のことを言ってる?」と感じます。語り掛けられるような軽い文体なので、「ニュースの見過ぎは確かに良くなさそう、でもまあ、ネットサーフィンは楽しいよね」など、色々と感じながら読むことができます。
この本はニュースに翻弄(ほんろう)される人々の、心理と行動を描いた「リアル社会派心理ミステリー小説」として読めば良いと思います。
②心理学の「学習性無力感」を学ぶ
ニュースからメンタルを守るために、心理学を学ぶ本としても読めます。
ニュースメディアは(中略) 感動的な話や、どぎつい写真や、衝撃的なビデオや驚くような"事実„で私たちの注意を引きつけようとする。(p.81)
赤色の目立つテロップで、「衝撃!異変!異例の出来事!」と常に変化を付けないと、視聴者は見てくれません。そうしたニュースを見るほど、より短い期間での変化に敏感になります。
そして思います。
「私はこのニュースに対して、何もできない。導いてくれる指導者に任せて屈するしかない」。
著者は、これを『ニュースが「学習性無力感」を生じさせる』と言っています。
真相が分からないニュースを聞くと、誰でもモヤモヤします。人の脳は、起きた事をすぐに意味づけできる物語を求めて納得しようとするので、不安を解消しうとしてすぐに分かりやすい理由を探して見つけようとします。
ニュースを見すぎてショックを受けたり、気持ちが辛くなってしまう人は、テレビニュースやツイッターのトレンドは、見る回数を少なくした方が良いかもしれません。
③投資家・トレーダーのファンダメンタル分析に使う
投資・トレードをしている人にとっては、IR情報やbloombergのニュースは大事です。集めたニュースについては、次のように書かれます。
Xというたったひとつの理由など存在しない。短くまとめるために、ニュースでは理由をでっち上げざるを得ないのだ。(p.114)
株価の急騰急落の理由は、後付けされて報道されることがあり、速報と、判断に使える良いニュースは別物であると、教えてくれます。
3.要約では出てこない話
この本のメインテーマは「仕事に関係の無いニュースは見るな」の一言です。
数多くの要約メディアには現れない、次の文章が私は大事だと感じます。本の引用を引用するので、孫引きにはなりますが、目を引く文章です。
DeepL翻訳ツールを使えば、以下の引用は、だれでも簡単に読めます。
Traders and investors get into more trouble and make more expensive wrong decisions by following news than for any other reason. So heavily influenced by the news, the majority get lost in the maze, enable to see what the smart money is doing.(p.256) ※1
As a market aid, news is of little value in playing the market game successfully. News is generally for suckers. It misleads more often than it guides.(p.256) ※2
People often think that the best way to predict the future is by collecting as much data as possible before making decision. But this is like driving a car looking only at the rearview mirrors - because date is only available about the past. (p.260) ※3
※過去のデータを最大限に使って未来を予測することは、バックミラーを見ながら車を運転するようなものだ。
とてもグッとくる表現です。
4.統計学は未来を予測するか
4-1 科学の言葉と統計
date is only available about the past (p.260) ※4
※データは過去の事しか語らない
これは本当でしょうか?
医療の分野で言えば、薬や治療方法などは、科学的な過去の統計の積み重ねがあってこそ現れた成果です。"白衣の天使„ と呼ばれるナイチンゲールも、病院の衛生状態を向上させるために統計学を利用したと言われています。
難しいのは、何が判断に使える情報なのか分からない事だと思います。ニュースを見聞きした時、「これは後から振り返る情報だろうか?」という視点でニュースを見る事も、一つの方法かもしれません。
過去のデータを未来の行動に活かすという点では、統計学を勉強しておくと、いつか役に立ちそうです。(下の図解の本は、高校生から読める統計学の入門書で、とても分かりやすいです)
4-2 やっぱりニュースは必要ですよ
本の中では、ニュース源である新聞は1つに絞れと書かれていますが、私は4つ5つと複数のニュースをネットで見れば良いと思います。大勢の感情が向く方向に、物事が動くことは多いです。
それに、家族で食事中にテレビがないと、気まずくて重苦しくないですか!? 話題を共有する時とか、だんらんする時には必要なんじゃないかなと。職場の人との雑談にも、ちょっとしたニュースが手土産になりますので。
たまに、無駄遣いこそ、生きてるっていう感覚を感じさせてくれますからね。
「ニュースを見るのをやめないと!」と気を張るよりも、「自分はニュースを見続けるけれど、こういう考え方もあるんだな」という、ゆるいスタンスでいれば楽しんで読めます。
この本は、小説好きもビジネス書好きも両方楽しめる、リアル社会派心理ミステリーとして読むことがおすすめです。
引用元
書名:『News Diet』
著者:ロルフ・ドベリ
出版社:サンマーク出版
初版:2021年2月20日
※1※2 Faber,Marc: Market Commentary, 1. November2019.
※3※4 Christensen, Clayton M.: How Will You Measure Your Life?, HarperBusiness., P. 14.