藤城清治(ふじしろせいじ)さんの個展を観に行ってきました。
私が好きな作家さんで、実物の作品からは大きな熱量をもらえました。
感じたこと、考えたことを残していきます。

1.藤城清治さんの作品の魅力
藤城清治さんは101歳で現役の切り絵作家です。
一般的に切り絵というと白黒の作品をイメージします。
じつは、切り絵にはカラーの作品もあり、ライトアップの効果を通じて立体的で奥行きのある作品がたくさん飾られています。
藤城清治さんの作品は、
- ファンタジー要素の濃い作品
- 日常の風景を切り絵にした作品
- 震災や戦争をテーマにした作品
など、さまざまな作風の作品が展示されています。
2.水と鏡を使った演出が素晴らしい
展示では、水と鏡を使った作品がとても良かったです。
絵の中央には観覧車があり、両端に向かって小人の楽団や半分だけの虹があります。絵の手前には水面があり、初見では「ライトアップされた影絵の色が水面に揺らぐ効果があるんだな」と感じます。
では、絵の左右に向き合って置かれている鏡は何の役割でしょうか?
この作品は正面から見るだけではなく、水面にすこし身を乗り出して鏡をのぞき込むことで配置の意図がわかります。
切り絵作品の半分の虹は、鏡の世界の絵につながって完成します。合わせ鏡の中に絵の世界がどこまでも続き、幻想的な世界に入り込めます。
私はこの作品の演出がとても好きで、何度でも体験したい作品です。
3.ファンタジー作品が楽しい
藤城さんの作品には小人が出てきて、楽しそうに弾む動きが感じられる作品がたくさんあります。空に舞う葉っぱや風の動き、楽器を演奏する様子を見ているだけで楽しい気持ちになってきます。
宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』や、童話を主題にした作品もあり、ファンタジー要素の強い藤城さんのイメージは、こうした作品群から来ていると思いました。
それにしても90歳を超えてよく目が見えるなと、内心驚きながら細かな作り込みの作品を見ていました。特に樹木の光が差し込む箇所の細かさを見ているとそう思います。
4.悲惨なテーマと祈り
藤城さんは1924年生まれです。大正生まれで、戦中と戦後を実体験しています。
作品のベースとなった体験の荒々しさや勇ましさや生々しい痛みは、静かな作品の中に込められていると感じます。
- 原爆ドーム
- 特攻へ向かうゼロ戦
- 南三陸町防災対策庁舎
私はこうした作品に祈りに近いものを感じました。作品から感じるのは「思い続ける、覚えている」という力強い意思表明です。
あなたの痛みを覚えている。
勇ましさを覚えている。
生きたことを覚えている。
これは創作を通じて表現者がたどり着く一つの姿だと思います。作家の石牟礼道子さんも『苦海浄土』で水俣病を扱い、想像力だけで小説を書き上げました。
想像力を媒介にして創作をする人には、自身の感性に他者の感性を通そうとする姿勢があると考えています。
5.個展は熱量を与えてくれる
はじめて藤城清治さんの作品展を観に行ってからは数年が経っていて、今回はキャプションに「2020年」と書かれている新作にも出会えました。90代後半になってなお最新作を出しているという気概はものすごいです。胆力があります。
生の作品だからこそ受け取ることができる存在感と熱量がありました。
言語化されきる前の「なにかすごくいいものを見た」という体験ができます。
あと、受付の人もすごく丁寧に接してくれたり、すぐそばにカフェもあったりと、あの展示場周辺は居心地が良くホスピタリティにあふれる空間でした。
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大阪の藤城清治さんの個展に行く人は、一緒にこんな展示会もおすすめです。
京都府にある京都府立植物園では、『あしもとにゆらぐ』というタイトルで、絶滅危惧植物をテーマにした「希少植物作品展」が開催されています。
十数名の若手作家さんが展示をしています。
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このブログでは、源氏物語のゆかりの地を巡ったときの旅行記も書いています。