
九月に入って夕方の雰囲気が変わり始めたと感じます。
地面から湧き上がるような熱気がふと気が付くと無くなっていて、一瞬だけ肌をサッとなでるように柔らかい風が通り抜けていきます。
九月になった瞬間に夕方の風がほんとうに柔らかくなりました。31日と1日を隔てていた一本線がカレンダーを飛び抜けて夕暮れの空に境い目を伸ばすかのうようです。
夏が引いていく頃には、歌を聞きたくなります。
谷山浩子さんの『冷たい水の中をきみと歩いていく』です。オーディオドラマではおなじみの方で、幻想的な曲を作ることに定評があります。
歌詞のはじまりはこんな歌詞です。
冷たい水の中をきみと歩いていく
何も望むものはない
夏の一日
グラスの底を
水を通してくる七月の日射しが
横顔をきらめかせる
遠い過去から
ほほえむきみの
これ以上何も望むものはないほど幸福な時間。
「わたし」と「きみ」は、人×人ともとれますし、人外×人のようにもとれます。
ふたりは並んで座っていたのでしょうか?
それとも、海の中にいる人外のなにかが「きみ」の横顔を見ながら、結ばれることのない恋心を抱いていたのでしょうか。だとすれば、誰にも知られずに消えていくはずだった思いを谷山さんが掬い上げた。そういった想像が膨らみます。
みのらずに終わった恋は
夏ごとにすきとおる
みのらずに終わった恋は
こわいほどすきとおる
実らなかった恋には質量がない。
はずなのに、胸の内側には無いはずの何かが疼く。
景色の中に輪郭線だけがあり、わたしはそこにいない。
まるで人魚姫のように感じました。
触れられないから美しい
遠くにあればあるほど綺麗
そういう感性。
この曲は、夏の季節がめぐるごとに"あの日"の思い出が綺麗すぎて今にも死んでしまいそう、という儚くてちょっとこわい曲でもあります。
作詞・作曲を手掛けた谷山浩子さんはプロの音楽家で、作風もテーマも振れ幅が大きいです。
好きな人を閉じ込めて監禁してひとり占めにしたいだとか(ヤンデレ!)、お菓子の家でなくて紅マグロのおうちで誕生日会をしたいとか(かわいい電波曲!)、かと思えば孤独感に耐えられない人への応援ソングとか。
世界観を差し出してくれて、しっとりうたた寝ができるような曲が私は好きでプレイリストに入れています。
夏を送るひとつの儀式みたいに、今日も部屋に音楽を流します。