月曜日のエッセイ第7回です。
多様性(ダイバーシティ)は暗闇から、見知らぬ存在として現れます。相手のすべてを理解できると信じたときに、思いがけずに恐怖はやってきます。
I, Georgie, am Pennywise,
the Dancing Crown.
You are Georgie.
So, now we know each other, see what?
こう言って雨の日の排水溝の奥から声を掛けるのは、2017年にリメイクされてヒットしたホラー映画『IT "それ"が見えたら、終わり。』に出てくる殺人ピエロだ。
実はピエロは仮の姿で、IT"それ"は相手が怖がるあらゆる姿に変身できる。
狼男、ゾンビ、血の洪水。ピエロは人の恐怖を食べるのだ。
さらに一昔前、1818年のイギリス、ロンドンでは「怪物」が恐怖の対象になった。メアリー・シェリーの小説『フランケンシュタイン』に登場する怪物だ。
彼を作った科学者の名はフランケンシュタイン。怪物に名前はない。
怪物は自分の醜い姿を嘆き、連れ添う相手が欲しいと創造主の博士に願うも叶わなかった。しかし、怪物には知性があった。心優しく、友好的で、炎に驚き、芸術には涙を流した。
もしも怪物が現代にいたなら、きっともう少しましな生涯を送っていた。話し相手を盲目の老人に絞る必要なんて無い。ネットを使えば誰とでも話せる。SNOWでスキンを変え、Photoshopで背景をデコり、美白効果だって付けられる。すべてが自由自在! 前髪はお好み? チークはいかが?
怪物はメイクを覚えてピエロになった。LIVEをやって気さくに踊れる。しようと思えば顔出しだってユニークなネタになる。"それ”の心の内にあるのは愛と知性か、それとも憎悪か、見た目ではわからない。
そう、"もう、見た目ではわからない"。
心の奥に推し量れない暗闇がある。
わからない恐怖に対し、人は名付けることで戦ってきた。言葉があれば慣れてくる。見慣れたら怖くない。ググれば出てくる。準備ができる。
隠れようとする"それ"の寝床はいつだって暗闇だ。
怪物
あの病気
ガラが悪いあそこ
空気を読めないあいつ
IT
みんながもてはやす多様性ある存在は、暗闇から陽が射す世界に戻ってくる。
暗闇から顔だけ見せる。
暗闇から声だけ聴かせる。
電気の消えた部屋では、クローゼットに何かがいる。
暗闇から差し出されたその手は、
本当に握っていいものか?
引きずり込まれて、食われやしないか。
優しく握り返してくれるのか。
見知らぬ"それ"は、日常に思いがけなく現れる。
ダイバーシティは勇気が試される。