このブログでは、教育本を扱っています。
今日の本は、算数の単純な計算はできる一方で、文章題でつまずく子ども達に迫る一冊です。ブラックボックスになりがちな「間違いの回答にたどり着くまでの考え方」を説明してくれています。「すべての誤答には、子どもなりの理屈がある」という言葉が印象的です。
算数文章題が解けない子どもたち
1.9歳の壁と、文章題を間違える理由
9歳の壁
9歳の壁という言葉があります。
9歳以降の小学校高学年の時期には、幼児期を離れ、物事をある程度対象化して認識することができるようになる。(中略)一方、発達の個人差も顕著になる。 ※文部科学省「3. 子どもの発達段階ごとの特徴と重視すべき課題」より引用
「物事を対象化する力」とは、客観的・論理的・抽象的に問題解決をする能力とも言えます。目の前に形として無い物事を考える力であり、算数の文章題を解くことにも深く関わります。
なぜ文章題を間違える?
この本によると、文章題を間違える理由は次の通りです。
- 分母の理解、相対的な全体としての「1」の理解が不十分
- より大きい数が大きい、と考える
- 難易度の負荷量をコントロールしない
- 回答の妥当性の振り返りをしない
次の項目から、ひとつずつ確認していきます。
2.文章題でつまずく理由
理由1:分母の理解、相対的な基準としての「1」が分からない
数には、絶対的な数と相対的な数があります。
- 絶対的な数:数えられる実物と対応している。(例)ミカンの個数
- 相対的な数:全体を「1」とした時に対応する数。(例)1つのケーキを4人で分ける。
「1」には、モノを数えるときに、1個ある、という意味で「イチ」を使う場合と、任意のモノの量を「1」として、それを分割したり、比較の基準にしたりするという意味の「イチ」がある。(116ページ)
物と対応した絶対的な概念から、比較や分割などの相対的な概念への切り替えが困難であることが、文章題でつまずく1つ目の理由です。
理由2:より大きい数が大きい、という思考
分数や少数の意味を理解せず、より大きい数がある方が大きい、という考え方による誤りです。
多くの子どもは、分数の分母と分子がそれぞれ何を現わすのかが理解できていない。分母にしろ、分子にしろ、より大きい数字を含んだ数が「大きい」と判断しているのである。(116ページ)
1/2と、4/9の大小比較が難しいということです。
※9/18と8/18と同じ意味です。
理由3:難しさを予測・判断して、コントロールや代償方法を使わない
算数の分野では、複雑でややこしい計算式を目の前にしたとき、できるだけ簡単に変形することが役に立ちます。
- 図形問題で補助線を引く
- 簡単なイメージイラストを描く
- 線分図を引いて、大小関係を図示する
間違いを続ける子は、こうした簡単にするための方略を使わずに、難しい問題を前にすると諦めるという行動をとってしまいます。
ひとつひとつは普通の状況なら楽にできる心的操作が、数の事を同時に処理しなければならない状況では、処理が破綻してしまい、その結果、問題解決に失敗してしまう。(125ページ)
結果として、「何から手を付ければ良いかわからない」状態となり、無回答や白紙になります。
理由4:振り返りと検証が不在
明らかに回答の数字が外れすぎている値である場合でも、解いたら解きっぱなしで、振り返りをしないということも間違える一つの要因です。
以上の4つの理由が、子どもが算数の文章題で間違える大きな理由です。詳しい具体例や、さらに深い解説は、本の中で書かれているので、興味があればぜひ読んでみてください。
3.できるようにサポートするアイディア
この本には、どういうように指導をすれば良いのかまでは書かれていません。
そこで、私は次の2つの方法をまず最初にできることとして考えました。
3-1 認知的な負荷をコントロールする
できる子は何をしているのか気になりますね。本書に書かれたできる子の特徴を、そのまま真似すれば効果はありそうです。
上位層の子どもは図形の回転に認知的な負荷が高いのを見抜き、負荷を軽減するための方略を自分で考えることができたので、正解できたのである。(129ページ)
どうやら、「認知的な負荷を予想する」というのがキーワードのようです。
また、記憶している知識量が多いことに加えて、
一時にできる情報処理容量の限界をコントロールすることができる(132ページ)
と、このように、一時に同時に考えられる量の限界を知って、できることから少しずつ取り組むことが重要なようです。
3-2 「半分」をたくさん試す
分数と少数の理解には、相対的な「1」という考えをインプットしてもらう必要があります。分割や比較はその後です。
この、相対的な「1」はどんな実物にも当てはまる、という考え方をプッシュすることがいいのではないかと思います。ケーキやジュースを分けることや、料理を手伝ってもらうことも良いと思います。
まずはキリの良い、半分、2分の1を足掛かりにすれば、混乱も少なくできそうです。
4.まとめ
目の前に無い物事を考えることへのつまずきは、具体から抽象への移行のつまずきです。自然にできない子に対しては、具体的な物事と抽象的な物事を、できるだけとっつきやすい題材でサポートすることが必要だと感じました。
また、こちらの数学本は、数のそもそもの考え方を再確認できます。大人が読んでも目からうろこの面白い1冊です。